函館スプリントステークス2023

[GⅢ函館スプリントステークス=2023年6月11日(日曜)3歳上、函館競馬場・芝1200メートル]

【トレセン発秘話】コロナ禍や東京五輪で例外的だった年を除けば、記者は函館開催の1週間ほど前(今年は5月31日)に現地入りして取材を始めているのだが、今年はちょっとした違和感を覚えている。例年だと開幕週のGⅢ函館スプリントS(11日=芝1200メートル)を目標に定めた馬たちが早い段階から数多く入厩しているはずが、今年は1週前の時点ではほとんど当地入りしていないのだ。俗にいう1週前追い切り(31日)を函館競馬場で行ったのはムーンプローブただ一頭。他はというと週末の3、4日に時計を出した馬がほんの数頭いたくらいのものだ。

 昨年とほぼ変わらない開場日だったにもかかわらず、早めの入厩で態勢を整える馬が激減した理由は? 単純に函館入りしている馬の総数が減っているのであれば、それも当然と言えるのだが、先週中時点で入厩頭数は400頭に迫り、頭数全体としてはむしろ例年より多いとなると…。

 改めて入厩馬をチェックすると、函館SSなどの重賞組に限らず、特別戦に登録する高額条件馬の入厩が少ない印象。私見では「馬房割り当て」の調整が絡んでいるのではないかと思われる。このあたりは今後、取材を進めてその要因を明らかにしたい。

 一方で差し当たって重要なのは唯一、早入り調整を行っているムーンプローブに果たしてどれほどのアドバンテージがあるのか。これに尽きる。前出の1週前追い切りはダート単走ながら、5ハロン69・7―12・5秒を一杯に追われてマークする、3歳牝馬としてはかなり意欲的な内容だった。これも直前に長距離輸送のない滞在競馬のメリットと容易に察しは付く。

「牧場帰りで少しゆったりしているというか、大きくなっていたのがひとつ。それと今年の函館のウッドは異常なくらい深くて、脚を取られてしまうほど。長めから追いたかったのもあって、ダートを選択しました」

 担当の黒野助手は1週前追い切りの意図をそう説明してくれた。肉体的な負荷をしっかりかける意味でのハード追いは分かるとして、ウッドの状況がそれほどまでとは調教を見ているだけでは実感できなかったこと。仮に遅れて入厩した他の陣営がこの点を把握していなければ、直前の調整に狂いが生じる可能性もはらむ。これも「先乗り」ならではの利点と言えようか。

 何より3歳牝馬は斤量面の恩恵も大きい。これらを総合的に考えると、やはりムーンプローブは魅惑の穴馬という結論に達する。

「追分(ファーム)から直接の函館入りでメンタル的には十分な落ち着きがあります。逆に滞在で気が緩み過ぎないよう、うまくスイッチを入れながら調整したいですね。スプリント路線は新しいチャレンジになるけど、(阪神JF、桜花賞の両GⅠがともに17着惨敗だった)1600メートルより、1400メートルのほうがいい競馬をしてくれた(GⅡフィリーズR2着)。それに母も短距離志向でしたから、血統的にも可能性はあると思っているんです」(黒野助手)

 軽量の3歳牝馬にはブトンドール(函館2歳S)、リバーラ(ファンタジーS)というGⅢの覇者もいるため、最終追いを待っての決断となるが…。現地一番乗りのムーンプローブのアドバンテージは少なくないとの確証は予想に大いに反映させたいと思っている。

ムーンプローブには買える材料が揃っている

著者:立川 敬太