初のビッグタイトルを手に入れたテーオーロイヤルと菱田
初のビッグタイトルを手に入れたテーオーロイヤルと菱田

天皇賞春2024

[GⅠ天皇賞・春=2024年4月28日(日曜)4歳上、京都競馬場・芝外3200メートル]

 28日、京都競馬場で行われたGⅠ天皇賞・春(芝外3200メートル)は、1番人気のテーオーロイヤル(牡6・岡田)が4角過ぎで先頭という堂々とした競馬で勝利。管理する岡田調教師、騎乗した菱田ともにJRA・GⅠ初制覇となるメモリアルレースとなった。多くの関係者から拍手が起こった〝祝福V〟。6歳春にしてGⅠ制覇を果たしたテーオーロイヤルの可能性とともに、GⅠ後の検量室前とは思えない柔らかな空気感も含め、リポートする。

 何から書き始めればいいのか? 材料が多過ぎて判断に悩むレースだ。

 誰もが思い浮かぶメインテーマは人の物語。少年時代の菱田を競馬の世界に誘ったのは2004年の天皇賞・春。横山典が大逃げで波乱の10番人気Vを決めたイングランディーレを見て、競馬の道へと進むことを決めた。当時、人生の決断を下した自身に対して「ありがとうと言いたい」とレース後に話した。デビュー13年目での悲願のGⅠ制覇が思い出の地であった巡り合わせに、心を動かされない関係者はいないだろう。

 送り出した岡田調教師は2003年に開業。22年目にして初のJRA・GⅠを愛弟子の手綱で達成した。師弟関係が希薄になったと言われる現在のサークルにおいては珍しい人情ドラマ。結果を出した弟子への最初の言葉を聞かれ、「よくやったと言ってあげました」。1番人気のプレッシャーに負けなかった事実を素直に褒める姿に人間性の素晴らしさを改めて感じた。ゴールの瞬間に浮かんだ思いは「うれしいよりも感謝」。これも岡田師の性格を端的に示す言葉だ。

 が、そんな美しい背景さえもかすむほどだったのがテーオーロイヤルの強さ。決して有利と言えない14番枠からスタートし、道中の手応えは常に抜群。2度の坂の上り下りがマイナスに働くこともなく、初めて挑んだ淀の3200メートルを苦もなくこなした。

 菱田は「前日に四位さん(調教師)から坂の上り下りについてアドバイスをいただきました。2周目の坂の下りを上手に回ってきたら、もう大丈夫だよと」とレース前に先輩から貴重なアドバイスをもらっていたことも打ち明けた。

「手応えがあるのであそこから動いていけたし、興奮はしていたけど、安心して見ていました。心肺能力が非常に高く、今回でも走り切ったという感じがしない。まだまだ伸びシロがあると思っています」(岡田調教師)

 豊富なスタミナ、折り合い不問、高い操作性と長距離馬に必要なすべてを備えた馬。長い休養を挟んでいることもあってか、6歳春を迎えた現在でも天井が見えない。この路線の長期政権さえも予感させたパフォーマンスについても、前述した人間ドラマとともにしっかりと記憶しておくべきでは? いや、そこにこそ注目すべきではないかとも思う。

 現在の日本競馬において、長距離砲の走る舞台は少ない。トレーナー自身は「今後のことはオーナーと相談して」と明言を避けたが、記者に囲まれた小笹公也オーナーは「海外の話も出ていましたね。検疫の関係もあるけど、メルボルンCが視野に入っているようなことは言っていました」。この馬もまた海外へと打って出ていくことになるのか。だが、それ以上に心に残った言葉は「岡田先生と菱田騎手。引退までこのタッグで行ってほしい」とオーナーが明言したこと。どれだけペンを進め、馬の強さをクローズアップしても、人の物語へと戻ってしまう。そんな天皇賞・春だった。

著者:東スポ競馬編集部