GⅠ初制覇となったテンハッピーローズと津村
GⅠ初制覇となったテンハッピーローズと津村

ヴィクトリアマイル2024

[GⅠヴィクトリアマイル=2024年5月12日(日曜)4歳上牝、東京競馬場・芝1600メートル]

 12日、新緑の東京競馬場で行われたGⅠヴィクトリアマイル(芝1600メートル)はブービー人気の超伏兵テンハッピーローズ(牝6・高柳大)が大外から一気に脚を伸ばして勝利。鞍上・津村とともに初のGⅠタイトルを手にした。ウイニングランでは「津村おめでとう!」の温かな声援に包まれた東京競馬場。苦労人の努力が報われた瞬間だった。

 5ハロン通過56秒8は戦前の予想を超えるハイペース。後方を追走した上位人気馬の差し脚炸裂か?と思われたが、どの馬よりも強烈な伸びを見せたのは14番人気の伏兵テンハッピーローズだった。東京巧者の6歳牝馬の激走。もちろん馬も褒められるべきだが、この一戦はやはり鞍上・津村抜きには語れまい。

 レース後の会見でも一つの質問を皮切りに質問が多く飛び交う…まさに津村の人望が表れた瞬間だろう。思い返せば昨年、自分が初めてトレセンへやってきた週、先輩記者に連れられ、緊張しながら自己紹介をした際も「おお! よろしくね!」と冗談を交えながらにこやかに話してくれたのは新人であった自分にとって何よりもうれしく、救いとなったことを覚えている。

 しかし、そういった人望に加えて21年間培った熟練の技も光ったと言えよう。例えば開催日の朝に人知れず行う馬場確認。12日の馬場は「雨が降っていない割には昨日よりも軟らかい、掘れやすいような馬場になっていて…展開によっては前もきつくなるかなという印象を持っていました」。そしてパドックでまたがっても「ちょっとお客さんを見て馬も少し舞い上がっていたので声をかけてあげていつも通りぐらいの感じで競馬には挑めました」と馬を平常心に導く。この日だけでなく長いキャリアの中で積み重ねてきた〝準備〟。鞍上は「4コーナーも手応えは抜群で、先頭に立ってからは『誰も来ないでくれ!』という思いでずっと追っていました」と振り返るが、これらの地道な努力が人馬の背中を押したのは間違いないだろう。

 1分31秒8という見た目の数字は立派。ただ、GⅠ馬はわずか2頭のメンバー構成、有力馬の不利や凡走、差し馬に向いた展開。レースのレベルを問われれば答えに詰まるものだろう。しかし…競馬をひもとけば、すべての物語が人馬へと行き着く。今年のヴィクトリアマイルはレベルうんぬんを超えて、GⅠの壁に47度はね返されても戦い続けた津村明秀の努力が結実した日としてファンに記憶されることだろう。

著者:権藤 時大