福永祐一騎手を背にアメリカンオークスを圧勝したたシーザリオ
福永祐一騎手を背にアメリカンオークスを圧勝したたシーザリオ

 2005年の夏、角居勝彦調教師の姿がアメリカにあった。

 アメリカ独立記念日の前日にあたる7月3日、当時ロサンゼルスにあったハリウッドパーク競馬場で行われていたのがGⅠアメリカンオークス。芝2000メートルのこのレースに、シーザリオを連れて行ったのだ。

 同馬はこの年の日本のGⅠオークスを勝つなどデビューから5戦4勝、2着1回。ほぼ完璧な成績で太平洋を渡ると、現在は調教師となった福永祐一騎手を背にアメリカでも格の違いを披露した。2着馬を4馬身も突き放して快勝してみせたのだ。

 このレースぶりからシーザリオは後にエクリプス賞(北米競馬において日本のJRA賞に該当する表彰)の最優秀芝馬の最終候補にノミネートされるほど評価された。しかし、この快勝劇は必ずしも馬の能力だけによるそれではなかった。

 前年の同レースに挑み2着だったのが美浦・藤沢和雄厩舎に所属していたダンスインザムード。角居厩舎の陣営は、藤沢和厩舎陣営から積極的にアドバイスをもらったという。

「例えば、洗い場では日本のように馬を張れないので、1人が馬を持って、別の人が洗わないといけない」

 そう聞くと、日本にいるころからそれを実践した。

「独立記念日は夜中まであちこちで花火が上がってうるさい」

 この年の独立記念日はレースの後ではあったが、メンコ(耳覆い)を2枚持って行くことで対処した。

 角居調教師のこういった繊細な対応がアメリカンオークス制覇という快挙を成し遂げたのであり、後に豪州のGⅠメルボルンCやGⅠドバイワールドCほか、世界中の大レースを制すに至ったのは間違いないだろう。

 現在、ハリウッドパーク競馬場は取り壊され、日本の3歳牝馬にとって既定路線となりつつあったアメリカンオークスもその形ではなくなった。藤沢和調教師は引退され、角居調教師も定年を待たずに競馬界を去った。ああいった偉業がもう見られないのは残念でならない。(平松さとし)

著者:東スポ競馬編集部