新人記者・栗栖歩乃花のトレセン日記

アブストゥルースと向き合う栗栖記者
アブストゥルースと向き合う栗栖記者

 トレセンで取材をしているといろいろな馬に出会います。ダービーやオークスなど大きなレースに出るスターホースはメディアに頻繁に取り上げられますが、現実には1つ勝つだけでも大変な馬、デビューするまでに多くの苦労がある馬もたくさんいます。予想をするときに馬柱を見ていると、4歳でデビューした馬に気が付きました。

 上原博厩舎に所属する4歳牡馬アブストゥルースの競走成績はたったの2回。4歳で2度しか走っていないのです。「4歳でデビューする馬は珍しいからな」と上原博調教師が言うように、最近は2歳のデビューも3歳未勝利戦の締めも早くなり、4歳でデビューする馬がさらに珍しくなってきているようです。

 率直に、なぜ4歳までデビューしなかったのかを聞いてみると「牧場でずっとケガをしていたんだよ。デビューできると思うたびに、ケガをしてしまってね」と上原博師は教えてくれました。それは、アブストゥルースくんの性格が影響しているようです。「警戒心が強くて神経質なところがあるから、それで暴れてしまうんだよ。特に初めてのものには驚いてしまうんだよな」。とっても繊細な子なのですね。

 その性格がゆえにゲート試験も時間がかかったようです。今、トレセンには多くの2歳が入厩しているので、一緒にゲート練習をしたそうですが「2歳のほうが落ち着いていたよ(笑い)。初めてのゲートには近づかないし、無理に近づこうとしたら暴れてしまうから」と見たこともない大きな物体と、それに入らないといけないことに大きな不安を感じてしまったのです。

 それでも、合格しなければレースに出走することができません。「ダメだったら…と思いつつ、人馬共にケガがないようにゲートに入れてみて、通るだけの練習を何度も繰り返して、やっと合格したよ。一回覚えたら大丈夫だからね」と根気よくゲート練習をしていることが分かります。

デビュー戦の結果は15着

 入厩した時からの様子を聞いていると、手がかかっている馬なはずなのに、上原博師はうれしそうに話します。「頑張った」「偉い」という言葉が絶えません。きっとアブストゥルースくんにも人間の温かさや思いが伝わっているから厩舎では安心して過ごせているんですね。

 ゲート試験に合格しデビュー戦を迎えましたが、結果は15着。しかし上原博師は「タイムオーバーにならなかっただけえらいよなぁ。4歳でデビューして未勝利なのに経験豊富な馬と戦って、2頭も負かしているんだから」とにっこり。続いて「出れるところは少ないけど、それでもレースに慣れさせたい」とアブストゥルースくんの性格上、まずは慣れることに重きを置いて、体調面を見ながら次走に備えていました。

 そうはいっても心配はあるそうで「2回目にどうなるかだな。良いほうに出るのか、悪いほうに出るのか…」。大体の2歳は一度レースを経験すると、競馬がどんなものか分かって走るそうですが、4歳デビューのアブストゥルースくんはどうなのか。「苦しい思いをしたから、暴れて走りたくないっていう可能性もあるしなぁ」

 そして、迎えた6月22日。いよいよ2走目の日が来ました。結果は、8着! 現地・東京競馬場で取材していた私も、「頑張れ!」と必死で応援しました。

 後日厩舎を訪れると上原博師は笑顔で「良いほうに出てたなぁ」と一言。出走後に大きな疲労も見られないのでそのまま3走目に挑みます(来週の福島予定)。

〝勝利〟を目指しての関係者の努力は、GⅠ馬だろうが4歳デビュー馬だろうが同じなのです。アブストゥルースくんならきっと大丈夫! これからも勝利をつかみにいく、その瞬間を目に焼き付けたいと思います!

著者:栗栖 歩乃花