横浜市は令和6年能登半島地震発災直後から、多数の職員を石川県、富山県に向け派遣。本紙では、被災地に派遣された港南区役所、栄区役所の職員にインタビューを行い、被災地の現状や、そこから見えた両区の震災対策について話を聞いた。

栄区から派遣され、インタビューに応じたのは総務課の芦葉昇平さん、武内秀幸さん、高齢・障害支援課の木村香織さん。芦葉さんは1月11日から18日まで、武内さんは1月31日から2月7日まで石川県志賀町に、木村さんは1月13日から17日まで石川県珠洲市にそれぞれ派遣された。

芦葉さんが担当したのは、避難所集約化の作業。発災直後は学校が避難所となったが、学校再開に向け、避難所の統合、公共施設への移転が行われた。その中で重要な役割を担ったのが「区長」と呼ばれる地域住民の代表者(横浜市の連合町内会・自治会会長)だったという。「避難所で初めて会う人同士を『区長』さんが橋渡し役となってつなぎ、助け合う雰囲気を作っていた」と地域コニュニティーの重要性を訴えた。

また、世代間の協力を指摘したのは罹災証明書の発行、被害の調査などを担った武内さん。武内さんによると「自主避難所で生活している人も多い」とのこと。自主避難所は、混雑する公的な避難所を避け、近隣住民で寄り集まって開設されたもの。そうした場所や在宅避難者への物資輸送は民間企業や車の運転が可能な若い世代が担っている。さらに、行政からの情報伝達はSNSで行われたため、世代間で情報共有をする姿も見られた。

木村さんは保健師として自宅に戻った人の健康相談などに応じ「高齢者の健康相談では薬やお薬手帳があるととても良かった」と振り返る。今回の地震は元日に発生したこともあり、「年末年始の分」と多めに薬を処方されていた人が多かった。そのため、現在服用している薬が把握でき、健康相談が円滑に進んだ。

港南は事務トラブル認識

一方、港南区から派遣され志賀町で2月1日から8日まで罹災証明書発行の業務にあたった、区政推進課の水井絵美さんが感じたのは、事務トラブルについて。罹災証明書は被災時に行政からの支援を円滑に行うためのもので、発行にトラブルが起これば、支援にも影響を及ぼす。しかし、コピー機のカートリッジやクリアファイルなど事務用品が足りない事態が発生。「水や食品だけでなく事務用品の備蓄も課題となる」と話した。また、港南区の事務的手続きマニュアルに関しても再検討する可能性があるという。

事前に何が起きるか予測

区民ができる災害対策として両区の職員が口を揃えたのは「ローリングストック」だ。ローリングストックとは、普段から使うものを多めに貯蓄しておく対策。食品であれば賞味期限が来たら消費してしまい、また新しいものを買い足すことで、常に一定量の食糧が自宅にある状態を維持できる。さらに、卓上コンロのガスを買い置きしたり、災害時に役立つキャンプ用品でキャンプに行ったりなど、日常使いするものを多めに揃えることが対策となる。

また、事前に想定しておくことの重要性も訴えた。例えば、大規模災害時に火災が発生しても、消防は他の大規模火災の対応や救急の対応に追われ、全ての火災に対応できるとは限らない。そんな時、消火の鍵となるのは、両区に設置されている初期消火箱だ。一般人でも扱いが可能だが、使い方を知らなければ消火できず、大規模火災へとつながってしまう。消防が支援する訓練で使い方を学ぶことが大切だ。

芦葉さんは「避難所では非常用トイレがあっても使い方が分からず、不衛生になるケースもあった。訓練で発災時に起きることを知って『避難者はお客さんではない』と感じてほしい」、水井さんは「被災地の現状を伝え区民だけでなく区役所職員の意識も変えていきたい」と話した。