「着替えや授乳をする場所がなかった」「仮設トイレが男女一緒で特に夜間はトイレに行くのが怖い」。東日本大震災では、避難所生活で女性が直面した不安や問題が明らかになった。避難所運営に女性の視点を取り入れることの重要性が指摘されている。

内閣府が震災発生後に実施した「男女共同参画の視点による震災対応状況調査」によると、避難所運営の責任者はほとんどが男性で女性が不在だった。生理用品など物資が不足していても女性が要望するのをためらったり、食事作りは女性の担当が固定化するなど、男女の役割に対する旧来の固定観念が浸透していることが避難所運営で明らかになった。

「女性の視点を取り入れるには、意思決定の場に当事者がいることが欠かせない。だが実現できていないのが現状だ」。辻堂地区防災協議会会長でアジア防災センター理事長を務める小川雄二郎さんはそう話す。

市危機管理課によると、防災計画の策定に関わる防災会議は委員40人中、女性は2人。各地区の自主防災団体の代表で構成する防災組織連絡協議会では会長14人のうち、女性は湘南台と湘南大庭地区の2人のみだ。

小川さんは「ジェンダー平等が世間で課題となっているように、避難所運営でも全く同じことが起きている。今の状況では避難時、女性に大変な苦労をかけかねない」と懸念を打ち明ける。

市は、避難所運営に女性の視点を取り入れようと昨年3月、女性職員や衛生用品メーカーの社員などと検討会議を開催。今年度は全職員を対象に研修を実施し、女性職員や避難所運営委員会などからの意見を集めて避難所運営や備蓄資品の更新に反映させていく方針としている。

また防災リーダー研修を通じて女性リーダーの育成に取り組むほか、避難所生活で女性が意見や要望を出しやすい環境を整えるため、イベントなどを通じて市民への啓発も図るという。

市は2023年4月、避難所運営マニュアルに「女性視点の避難所運営について」の項目を記載。女性用トイレや更衣室、授乳室などプライバシーに配慮した生活環境の確保や衛生用品の配布方法などの課題解決に向け「避難所運営委員会の役員などに女性の参画・登用を積極的に進めることが大切」と示した。

大規模な災害が発生した際、避難所を開設し、運営にあたるのは自治会や町内会、自主防災組織など地域住民が主体になる。小川さんは「相当の意識改革が必要になる。防災組織としても問題意識を持っていかなくてはならない」と話した。