生活困窮世帯に暮らし、引きこもり傾向にある若者たちの居場所として2014年に誕生したブリュッケ(中原区)の活動が11年目に入った。家庭にも社会にも居場所がない孤独な若者たちにそっと寄り添いながら、彼らの「生きるスイッチ」が起動するための取り組みを続けている。

「この曲知ってる!」「結構好きかもー」

5月某日。JR南武線沿線のとある商店街の一角にあるブリュッケでは、20人ほどの利用者が集まり、各自が好きな音楽を同席者にプレゼンするワークショップ「みんなの音楽」が開かれた。パソコンとプロジェクターを使って、思い思いにアーティストの魅力を解説。基本的に自由参加のため、会話に加わらずに読書を続けたりする若者もいるが、その状態でリラックスしているように見える。

ブリュッケの正式名称は「川崎若者就労・生活自立支援センター」。運営する認定NPO法人「フリースペースたまりば」が、生活困窮世帯の若者のための市の就労自立支援事業を受託する形で、2014年から運営を続けてきた。

現在の利用登録者は15歳から39歳までの64人。月・水・金曜の3日間は登録者が自由に利用でき、火・木曜は予約制だ。センター長の三瓶三絵さんは「過ごし方は基本的に自由だし一人でいられるスペースもある。若者たちが安心して過ごせる居場所であるよう工夫している」と話す。

最大のミッションは「就労支援」だが、三瓶さんは「少しでも能動的に生きようと思う『心のスイッチ』が入るまで、寄り添うことが先決」と語る。複雑な家庭環境で育った若者も多く、「様々なことを諦めて生きてきた影響で、簡単に希望を持てない若者も多い」と言う。

そのためブリュッケではまず「普通の日常」を過ごしてもらう。手作りのランチを一緒に食べたり、様々なワークショップを通じてスタッフや仲間と談笑したりしながら、気持ちをほぐし、社会につながるきっかけを一緒に探っていく。

若者支援の脆弱さ

そして希望者は「たまりば」が運営するカフェでの有償ボランティアに挑戦する。お金を稼ぐ喜びを体感してもらい、自発的な就労意欲を促すのが狙いだ。昨年は延べ約200人が体験し、結果的に17人が就職した。

だが三瓶さんは「成果は喜ばしいが、『就職イコール自立』では断じてない」と言葉を強める。ブリュッケに来る若者の多くが困難な環境下で学習機会を奪われ、中卒や高校中退だ。就職したくても安定した職に就くハードルは非常に高い。加えて病気の親のケアを担うヤングケアラーも少なくない。「困難を抱える若者たちの自立を阻む要因は本当に複雑に絡み合っている。『就職イコール自立』という観点だけの支援の枠組みは、現状を踏まえず脆弱すぎる」

三瓶さんは、若者たちが安心して過ごせる場を「コミュニティー」へと広げるべく、地域での清掃活動やボランティア活動など体験の領域を広げつつある。「彼らがしんどい時にいつでも戻れる場所を広げ、増やしたい」のだという。