県立横須賀工業高校のグリーンボランティア部は、日本芝草学会が選出する「日本芝生文化大賞」を受賞した。高校部活動への授与は例がなく、最年少かつアマチュアで初めて。6月15日に山梨大学で開かれた春季大会内で表彰を受けた部長の阿部翼さん(3年)は、「みんなで協力して取った賞」と喜びの表情を見せた。

芝草など地被植物に関する学術研究や技術向上などをめざす「日本芝草学会」が、日本の芝生文化に貢献している個人や団体を表彰する同大賞。2008年度、川淵三郎氏(日本サッカー協会)の受賞以降、栗山英樹氏(スポーツキャスター)、石川遼氏(プロゴルファー)らスポーツ関係者や阪神甲子園球場、国立霞ヶ丘競技場など9者に授与されている。

専門の技術者や研究者、芝生管理者などで構成される学会から贈られた栄誉に、部員らは「びっくりしてまだ実感はないが、長くやってきてよかった」と話した。

雑草だらけから一転

神奈川県は09年度から県立学校の校庭芝生化を推進。これに取り組んでいた石井力教諭が前任校から異動したのを機に、同校では18年度から校庭の全面芝生化に向けた活動が始まった。

同部の前身は、石井教諭の声掛けで集まった生徒数名によるボランティア同好会。もとは雑草が繁茂した校庭だったが、育苗から植え付け、施肥や芝刈りまで一貫して行うと、21年秋には芝生面積は約1万2千平方メートルにまで拡大した。現在は部活動への昇格も果たし、12人が活動する。

広がる活躍の場

活躍の場は校外にも広がっている。隣接する公郷小学校や公園、県立岩戸養護学校などの緑化管理を担当。生徒自らが講師役となって地域住民に手法を指南する場面もあり、蓄積した技術と知識を地域貢献で還元する。

また、資源循環によるSDGsも実践。逗子市を流れる田越川の掘削で出た浚渫土を県土木事務所から譲り受け、塩分やゴミなどを除去後、苗の育成に再利用。本来は費用をかけて廃棄する土砂や堆積泥だが、芝の生育に良い多くの栄養が含まれているという。

久里浜に練習場を構えるサッカーJ1「横浜F・マリノス」は、コート整備で発生したコア(廃棄芝)を提供している。コアから出た新芽を使用することで、コアポット苗や撒芝法など、従来の方式と比べて簡素化・工期短縮に成功。県造園業協会と同部は「新神奈川方式」と名付け、県内の校庭・園庭芝生化にも活用している。

部員が”グラウンドキーパー”という珍しさだけでなく、地道な作業と勉強熱心な姿勢に周囲の大人たちも感化。「芝生教室」と銘打った特別講義には、研究者や作業機械メーカー、種苗会社など芝生にまつわる専門家が協力を惜しまない。

同校の学食運営会社のオーナーも、学校が休みとなる土曜日に昼食を振る舞って生徒の奮闘を応援しているという。

国際研究会議に参加へ

一連の取り組みが高く評価され、同部は25年夏に長野県軽井沢町で開かれる国際芝草研究会議の参加も打診されている。

今年8月で引退を迎える現3年生は同会議の出席は叶わないが、これまでの活動成果が世界的にも認められたと喜ぶ。副部長の佐藤陽彩さん(3年)は、「活動はたくさんの人の協力を受けて成り立っている。周りに感謝したい」と話した。