国が大学の研究力強化に向けた政策を打ち出す一方で、将来の研究を担うはずの大学院生は減少傾向にある。大学院生を取り巻く現状を探るこの連載の第5回は、京都大学吉田寮が舞台だ。大学側は吉田寮に住む寮生たちに、寮の明け渡しを要求したが、学生たちはそれを不服として司法の場で争っている。寮生側に、大学の要求に対する思いなど、話を聞いた。

日本最古の学生寮と呼ばれる、京都大学の吉田寮。1913年建築の「現棟」と、2015年に新築された新棟も含めて、寄宿料は月400円だ。水道光熱費などを合わせても、月2500円ほどで暮らせる。

吉田寮の運営は、長年、寮の自治会と大学との話し合いのうえで行われてきた。ところが大学側が2017年12月に、老朽化などを理由に、一方的に寮からの退去を通告した。

2019年4月以降、寮生と元寮生あわせて40人に対して「現棟」と食堂の明け渡しを求めて提訴する、前代未聞の事態が起きた。

一審で寮生側がほぼ勝訴したものの…

京都地裁での5年にわたる審理の結果、2024年2月に言い渡された一審判決は寮生側の主張をほぼ認める内容だった。

寮自治会の法的な主体性を認めたうえで、現在入寮中の17人のうち、大学側が退寮要請以降に入寮したことが確認できない3人を除く、14人に対しては、立ち退く必要はないと判断された。

一方で、大学側が退寮を確認できていないとする元寮生23人に対しては、明け渡しが命じられた。このうちの3人と、現在入寮中で明け渡しが命じられた3人の合計6人が大阪高裁に控訴。大学側も控訴した。

寮自治会は吉田寮の意義を「経済的困難をはじめとするさまざまな事情を抱えた学生の福利厚生施設」「豊かな自治が行われ多様な人が集い交わる場」と掲げる。寮を守る訴訟の一審で寮生たちは「ほぼ勝訴」したものの、今も裁判への対応に追われ、学業や研究に割くべき時間を削られている。

被告の中には研究で忙しい日々を送る大学院生もいて、研究を続けていくうえででも、寮の存在は重要だという。