AIの進化は私たちに何をもたらし、社会をどう変革していくのか。その答えを探るべく、日本の情報工学をリードする第一線の研究者で、師弟の間柄でもある暦本純一さんと落合陽一さんが「AI時代の知性」をテーマに語った。

本稿では、その対談をまとめた著書『2035年の人間の条件』からの抜粋で、AI時代に必要とされる「IQ以外の知性」について紹介する。

数学の概念は教育で身につけるしかない

──IQ以外で測る知性には、どんなものがあるのでしょうか。

落合:微分の考え方ができる人って、頭が良くて勉強も得意だと思うんですよ。でも、それはIQテストでは測れないんじゃないですかね。

暦本:距離じゃなくて速度とか、速度じゃなくて加速度みたいな話?

落合:そうです。たとえば理系の研究者は、1変数のパラメータをちょっとずつ動かしたときどうなるかとか、2変数だと動きがどう変わるのかとか、あるいは時間を止めて考えてみたりとかしますよね。加速度を固定するなら、速度をちょっと動かして考えてみようとか。

ロボットの動きを分析するには、時間を止めたり、X軸かY軸を固定したりするじゃないですか。物事の仕組みを理解したり、変化を分析したりするときは、そういう思考法が求められる。

理系の研究者だけじゃなく、スポーツ選手もこれが得意だと思いますけどね。たとえば野球の投手が腕の振り方を変えようと思ったら、それ以外の体の動きは変えずに、いろいろな腕の動きで投げたボールがどうなるかを比較するでしょう。これは知性の中でも重要な要素だと思いますけど、生活の中でそれを考える人はあまりいない。