筆者は都内の20カ所の企業で嘱託産業医および精神科臨床を行っていますが、最近、現役世代の人たちと面談をしていると非常に複雑な気分に襲われます。というのは、新型コロナ感染症に対して、次のように怖がる人が増えているからです。

「コロナに感染するのはあまり怖くないけど、2週間近くも隔離されるのが困る」「もしコロナに感染しても風邪程度で治るだろう。でも自分が会社の同僚や取引先のお客様を濃厚接触者にしてしまうと迷惑をかけてしまって恨まれるのが怖い」「健康だからコロナに感染しても無症状か軽症で終わると思うけど、自分が感染すると子供が学校に行けなくなるし、差別されて仲間外れにされるだろうから絶対に避けたい」

つまり「コロナウィルス感染自体は怖くない」が、「感染したら自分も周りも隔離されることで生じる社会的制裁が怖い」ということを異口同音に訴えるのです。このような恐怖感が広がってきているのは、非常におかしなことだと思いませんか?

恐怖の対象はウイルスではなく「隔離・制裁」

3月末に緊急事態宣言が発せられた前後は、マスコミ(特にワイドショー)と一部の過激な有識者によって「コロナは恐ろしい殺人ウィルスだ。感染すると老いも若きもバタバタ死ぬ」といった間違ったイメージが流布されたため、真剣にコロナに罹患することを恐れている人が多数いました。

ですが、今は数々の統計データや研究結果も集積され、一部の良識あるマスコミでは真実に基づいた報道もなされるようになった結果、「コロナで重症化するのは、日本でも世界でも70歳を超えた高齢者と基礎疾患者がほとんどである」「健康な現役世代や若者・子供にとっては、ほとんどが風邪症状か無症状で治癒する」「日本は、厳しいロックダウンをしなかったにも関わらず、世界でも死者数・重症者数が非常に少ない」という事実が知識層を中心に幅広く理解されるようになってきました。(東洋経済オンライン記事『新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ』参照)

このようにコロナウィルス自体に対する恐怖感は薄らいできたにも関わらず、コロナに感染すれば濃厚接触者も含めて隔離されるために、「他人に迷惑をかけて恨まれたくない」「差別や迫害を受けたくない」という社会的な理由による恐怖感がはびこってきています。筆者はこれを一言で表現するならば、「隔離・制裁恐怖」だと考えます。