経済学史上で最も重要で影響力の大きい本と言われる『一般理論』(ジョン・メイナード・ケインズ著『雇用、利子、お金の一般理論』)。現代でも「ケインズの美人投票」など『一般理論』の内容が引用されることも多い。なぜケインズは今でも読み継がれているのだろうか。

そんな『一般理論』のエッセンスを凝縮し、現代的な意義をわかりやすく解説した『超訳 ケインズ「一般理論」』が刊行された。本書の解説も手掛けた編訳者の山形浩生氏による「はしがき」をお届けする。

ケインズ『一般理論』が刊行された当時の状況

時は1936年。第一次世界大戦が終わって喧噪の1920年代を迎え、繁栄を謳歌していた世界経済は、1929年のウォール街大暴落に端を発する大恐慌から一向に回復できずにいた。失業率は20パーセントを超え、その後少しは落ち着いたものの高止まりを続けていた。そして……当時の経済学は、その理由をまともに説明できなかった。

主流の経済学は、これは大恐慌で市場の仕組みが乱れたせいなのだ、と論じていた。好況時に積もった在庫がハケれば、雇用は自然に回復するのだ、と。が、実際の在庫を見ても、別に在庫が過大というわけでもない。それでも失業は改善せず、不景気は続いた。

一部の人は、これがバブル期に羽目をはずして騒いだ代償なのだ、と論じていた。「山高ければ谷深し」とか、説教がましいことを言って悦に入っていた。つまりは我慢しろということだ。

でも、どう見ても代償を支払わされていたのは底辺労働者で、羽目をはずして騒いでいた人たちではなかった。そして、我慢しろといっても、いつまで?

意識の高い知識人たちは当時もいまと同じくそうした人の不幸を大喜びして、「それ見ろ、これは資本主義の限界を示すものであり、これからは社会主義の時代なのだ」と鼻高々だったが、なぜこんな大恐慌が起きたのか、社会主義だとなぜそれが起こらずにすむのかについては、まともな説明はできなかった。