首脳会談の共同声明も、中国批判をすべて盛り込んだが、多くの読者にとって既視感があり驚きはなかったはずだ。バイデン政権は、台湾問題に対する危機感が、日本政府と世論に浸透し、共有されているという認識に立ち、首脳会談でも日本政府の一部にあった慎重論を押し切って、台湾問題を入れることに成功した。

バイデンはさらに2021年3月、対日工作と併行して、「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」(デービッドソン前アメリカ・インド太平洋軍司令官、3月9日)「中国の台湾侵攻は大多数が考えるより間近」(アキリーノ太平洋艦隊司令官、3月23日)などと、米軍・情報関係者が、台湾有事が切迫しているというキャンペーンを展開した。

日本の主要メディアや識者は、特にデービッドソン発言を「重い意味がある」として、台湾有事が近い論拠にした。

軍事緊張は「戦闘の意思と能力」を図るテスト

ここで第1かつ最大の論点は、中国が武力行使する「台湾有事」は、本当に切迫しているかどうかである。バイデン政権は2021年3月25日、アメリカと台湾の沿岸警備を協力・強化する覚書に署名した。続いて4月9日に台湾との政府間交流の拡大に向け新指針を発表すると、大量の中国軍機が台湾防空識別圏に繰り返し入り、「異様なキナ臭さ」が台湾海峡に漂った。

しかし2020年夏から台湾海峡を舞台に繰り広げられた軍事的緊張は、米中双方が互いの戦闘意志と戦闘能力をテストするためと筆者は見ている。中国がいま台湾に武力行使できない要因の第1は、世界最強の軍事力を持つアメリカと衝突しても勝ち目はないこと。第2に、「統一支持」がわずか3%にすぎない台湾の民意。民意に逆らって統一しても、国内に新たな「分裂勢力」を抱える結果になるだけだ。第3に、国際的な反発は香港の比ではなく、成長維持のために設定した「一帯一路」にもブレーキがかかる。

習近平は2019年の初め、彼の包括的な台湾政策(習五点)を発表し、「武力使用の放棄」は約束しないとしながらも、統一の進め方について「(中台の)融合発展を深化させて、平和統一の基礎を固める」との方針を唱えた。台湾海峡両岸の経済・社会的条件を融合発展させることによって、統一条件を作り出すという気の長い方針である。

習は2021年3月末、台湾対岸の福建省を訪問した際、「両岸の融合方針」を再確認する発言をしたが、これは「武力行使が近い」とする西側観測を否定するサインだった。

日米など西側では、台湾問題や香港への「国家安全維持法」導入を「習近平に権力を集中した強硬姿勢の表れ」との観測が目立つが、あまり根拠はない分析だ。アメリカ・イェール大学の歴史学者であるオッド・アルネ・ウェスタッド教授は「朝日新聞」のインタビュー に、中国の行動を「国益を阻害する他国の動きに対抗している」と、アメリカの行動に対する「受動的」なものとの見方を示している。