API(アジア・パシフィック・イニシアティブ)による「API地経学ブリーフィング」の連載「ポストコロナのメガ地経学」を開始して1年になりました。

連載1周年として開催した、API理事長の船橋洋一氏、API地経学ブリーフィング編集長でAPI研究主幹の細谷雄一・慶應義塾大学法学部教授、API-MSFエグゼクティブ・ディレクターの神保謙・慶應義塾大学総合政策学部教授の3氏による鼎談。2021年4月20日配信の「分断する世界で日本に求められる役割とは何か」、4月26日配信の「日本の対米・対中戦略に一体何が求められるか」に続く最終回をお届けします。

米中に狭まれる日本の戦略的空間

細谷 雄一(以下、細谷):前回は、先の日米首脳会談で両首脳が関係強化を確認した日米同盟に関して、対中戦略における日米の思惑の齟齬や、尖閣諸島、台湾海峡問題などの安全保障といった、日本の課題について話し合いました。今回は前回の議論を踏まえ、日本のとるべき戦略、そして政策について話し合います。

特に重要な、軍事と経済の両面を含んだ安全保障戦略に関して、それをつくっていくうえで根幹となる理念や思想を含めてお話しください。

神保 謙(以下、神保):2018年以降、安倍晋三首相退陣までの約2年間は、ある意味で日本外交の黄金期でした。トランプ政権下で米中の戦略的対峙が激化するなかで、日本は日米同盟を強化する一方、日中関係を大幅に改善することができました。黄金期と言ったのは、日米、日中関係の双方で最適解を求めることができ、ワシントン、北京から楔を入れられない時期だったからです。

同時期に世界でも稀な形で米中双方と良好な関係を構築したことは、日本の国際的なリーダーシップの基盤となりました。例えば、2019年に日本がホストしたG20大阪会合は、トランプ政権の多国間主義への不信と米中対立の狭間で、存続さえ危ぶまれる状態でした。しかし日本は巧みな調整でサミットを成功に導き、インフラ投資、金融、保険、データ貿易に関する重要な成果文書をまとめることができました。当時の日本の外交調整力は、その後のフランス主催のG7ビアリッツ会合の乏しい成果と比べても圧倒的でした。

日本の対米・対中外交の総仕上げとなりえたのが、2020年春に予定されていた習近平国家主席の訪日だったと思います。ところが、新型コロナウイルスによって外交日程が延期され、その後、香港の民主化後退、新疆ウイグル人権問題、海警法の制定を含む海洋安全保障の緊張など、安全保障や人権問題に関する事態が次々と起こり、対中政策をめぐる状況は一変してしまいました。