時代劇・暴れん坊将軍では、旅の一座の女形に化けた徳川吉宗扮する新さんに「通行手形代わりに、わちきの舞い、どうぞ見てごらんなまし」と迫られた関所役人は、珍妙な勢いに気圧され、「さっさと行け」とあっさり関所を通してしまう。しかし、実際の江戸時代では、通行手形なしでの関所破りは磔の死罪。重罪であった。江戸や各藩の安全保障のため、通行手形によって人の移動が厳格に制限されていたようである。

現代の国家間移動で要求される通行手形はパスポートだが、新型コロナ危機における各国の安全保障のために導入された渡航制限という新たな関所を越えるために、各国は「ワクチン接種証明書」という新たな通行手形を検討し始めている。

一方、江戸幕府の下に統一・調整された通行手形制度や強制力などが存在しない国際社会においては、各国が検討している規格はバラバラで、まったく調整が取れていない。

これまでの「接種証明書」は?

これまで、国際的な渡航に必要なワクチン接種証明書については、WHOが管理する感染症危機管理の国際法である国際保健規則(IHR)に基づき、黄熱病に対するワクチン接種証明書「イエローカード」が存在していた。南米やアフリカなど、黄熱病の予防接種を要求する国では、入国審査の際にイエローカードの提示が必要だ。提示できない場合には入国を拒否される。

イエローカードの有効期限は、もともとはワクチンの効果が持続する10年とされていたが、生涯有効であるからIHRを修正すべしとのWHO総会決議を受けて、2016年にIHRが改正された。日本では、厚生労働省管轄下の検疫所が責任主体として発行している。

このように、国際法的には、ワクチン接種証明書は、IHRに基づき議論がなされねばならないと規定されている。つまり、本来は、IHRを管理・運営するWHOが江戸幕府的役割を担い、通行手形の規格などに関する全世界的な調整を行うことが要求されているのだ。そしてそれは、2016年のイエローカード有効期限変更のときと同様、WHO総会において各国がIHR改正を決議し、コロナワクチン接種証明書をIHRに追加することで果たしうる。