また、そんな地域密着型の店舗を運営させているのは約6000人の従業員たちであり、彼らがスギ薬局の躍進を支えてきました。しかし、現在ネット上には、「スギ薬局には行く気がしなくなった」「スギ薬局絶対二度と使わない」などの不買運動を思わせる書き込みがあり、従業員たちは困惑しているでしょう。

もちろんワクチン優先接種を求めたことは問題視されるべきですが、同社にとってより深刻なのは、現場で地道に仕事をしている従業員たちに大きな負担を強いていること。彼らは今も目の前の客に応対し、批判や皮肉の言葉を浴びて謝っている人も少なくないでしょう。潜在的な不買運動による売り上げダウンも含め、従業員たちのダメージは大きく、今回の書面に納得できないのではないでしょうか。

日本組織が抱える前時代的な「おごり」

今回のニュースを聞いて、「いまだにこういう圧力や隠蔽があるのか」と感じた人は少なくないでしょう。ネットツールの普及で今回のような内部告発がしやすくなるなど、「隠し通すことは難しい」「うやむやにして逃げ切れない」という時代になっているにもかかわらず、なぜこういうことが起きてしまうのか。

スギ薬局の1号店は西尾市であり、杉浦会長夫妻が現在も西尾市に居住していること。さらに、近藤副市長が「スギ薬局の1号店跡地に、健康増進施設『西尾市民げんきプラザ』をお一人のご厚意で建てていただき、建物と土地を2017年4月から市へ無償貸与していただいています。同年5月には快適な街づくりに向けた包括連携協定をスギ薬局と締結しています」とコメントするなど、西尾市に多大なる貢献をしてきたのは間違いないでしょう。

そんな貢献に対する自負が「今までこれほどのことをしてきたのだから、これくらいはいいだろう」という交換条件のような思考回路につながったことは想像に難くありません。もし命にかかわることであるにもかかわらず、強引な方法で自分たちを優先させようと思ったのであれば、それが秘書でも杉浦会長夫妻でも、「自分は特別なんだ」というおごりにほかならないでしょう。

どんなに「素晴らしいことをしてきた」という自負があったとしても、命がかかわることとの交換条件にはなりません。このような誰もがわかりそうなことに気づけないのは、組織の管理体制が前時代的なままで、危機管理の重要性を理解できていないからでしょう。残念ながら、まだまだ日本には前時代的な「おごり」を抱える企業や公的機関が多いのです。

スギ薬局も西尾市も大幅なイメージダウンは免れないだけに、まずは地道な努力で信頼回復をはかりつつ、両者の関係性を健全なものに戻すことが重要。また、その一方で危機管理のプロフェッショナルを招聘して、さまざまなシチュエーションの対応方法を学んでおくべきでしょう。

著者:木村 隆志