高級ブランドが表参道に惹かれる理由はいくつかある。1つは表参道にしかない「個性」だ。六本木ヒルズ、ミッドタウン、丸ビルといった特徴のない複合商業施設が幅を利かせる東京は、月面基地のような華麗な都市に変わろうとしている。この転換のさなかにあって、表参道は独特の個性を醸し出している。

それを可能にしているのは、所有者の多様性だろう。表参道ヒルズを別にして、物件の所有権を不動産セクターの資金が握っているわけではなく、所有者は不動産とは無関係な個人や企業だ。

銀座になくて表参道にある「魅力」

ロエベ、セリーヌ、ジバンシィが入居するビル「ONE表参道」の所有者は印刷機大手の理想科学工業である。高級スーツケースブランドのリモワが入居する(そして、ウブロが出店するとみられる)黒川紀章氏ゆかりのビルの所有者は、日本看護協会の本部だ。

ロエベなどが入居するビルは理想科学工業が所有している(東洋経済オンライン編集部撮影)

このほかにも表参道には、他とは一線を画する商業地区としての強みがある。表参道エリアでは、高さ30メートルを超す建築物を作ることはできない。このエリアには、巨大な鉄道駅も、巨大な店舗も、巨大な書店も存在しない。条例により、表参道には大型のホテル、パチンコ店、オペラハウス、劇場など娯楽にかかわるものはいっさい認められていない。

そのおかげで、今でもここに居住している人が多く、本物の地域社会が息づいている。「ポルシェ販売店の隣に銭湯がある」と驚きを隠さないのが、職場も住居もこの地区というハースト婦人画報社の経営幹部ニコラ・フロケ氏だ。

銀座よりも環境志向で、若く、軽やかで、風通しがよく、ファッショナブルな点は、現代の贅沢の概念にも合っている。

「主要顧客層を分析すると、銀座がより成熟した従来型の顧客が多いのに対して、表参道は若くして裕福な顧客が多い」と、シービーアールイーのリテール向けシニアコンサルタントの齋藤絢馨氏は話す。そして、若い裕福な顧客を目当てに、高級ブランドが集まってきた。

「いくつかのショップでは、銀座と同じような売れ方をしている」と語るのは、ある高級ブランドのCEOだ。表参道店のおかげで新型コロナウイルスに襲われた1年をなんとか乗り切ることができた、と語る。海外に行けなかった日本人の多くがヨーロッパの雰囲気を醸し出すこの通りにやってきたという。

今や唯一無二の高級ブランドエリアとなった表参道だが、そのシンボルでもある表参道の交差点は、1945年の5月25日、世界の終末のような様相を見せていた。