米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。

独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

排出量取引と炭素税のどちらがいいのか

トヨタ自動車の豊田章男社長は4月22日に開かれた日本自動車工業会の定例会見で、「ガソリン車を禁止すればその雇用が失われる。噴射技術など日本が培ってきた強みも失われる」と訴え、内燃機関を使いつつ燃料を脱炭素化する方法もあると主張した。

一方、その翌日、ホンダの三部敏宏社長は四輪車の電動化方針として、2040年までにすべて電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)とする目標を発表した。

どちらが正解かはわからない。自動車だけではない。製鉄も還元に石炭(コークス)ではなく水素を使う水素還元製鉄が注目されるが、これについても正解となるかどうかはクリーンで安価な大量の水素を得られるか次第だ。不確実な状況で脱炭素を進めるには、技術中立的で、民間の創意工夫を引き出すカーボンプライシング(CP)が有力な手段となる。

カーボンプライシングとは「炭素の価格付け」とも呼ばれ、二酸化炭素を排出した量に応じて、金銭的なコストを負担する仕組み。カーボンプライシングの代表的な方法は「排出量取引」と「炭素税」だが、どちらが優れているのか。税収の有無は、排出量取引も初期の排出枠配分をすべてオークション(有償)で行えば炭素税と同等の収入が得られ、決定的な違いではない。主な相違点は以下だ。

▶ 価格の変動:排出量取引は、経済状況等により排出権価格が変動する。これは企業の投資や研究開発にマイナスだ。変動緩和のために、バンキング(余剰排出枠の将来への移転)やボロ−イング(将来の排出枠の前借り)を認めることは可能だ。排出権価格にキャップやフロアといった限度を設けることもできる。なお、炭素税も、量を確定できない欠点の緩和のため、国全体の削減目標未達時に翌期の炭素税を当初より引き上げるラチェット・メカニズムもある。

▶ 補完措置との相性:ハーバード大学のRobert N. Stavins教授によれば、排出量取引を実施中に補完的に規制を導入すると3つの影響が生じる。1つ目は、補完措置の対象分野では排出枠が使われず他の分野に流れていき、全体の排出が減らない。2つ目は、補完措置の対象分野とそれ以外で排出削減の限界費用が一致せず、非効率となる。3つ目は、排出権価格が低迷し排出削減努力や技術革新が低迷する。1つ目と3つ目の効果は炭素税では生じない。