経済安全保障論において、国際的ルール形成に関与していくことの重要性をいちはやく見抜き、学長を務める多摩大学に「ルール形成戦略研究所」を置いた寺島実郎氏。

『週刊東洋経済』6月21日発売号は「全解明 経済安保」を特集。政官は経済安保に一直線だが、民間からは戸惑いの声も聞かれる。

寺島氏は現在の「中国封じ込め」のための経済安保論には「事の本質を見誤ってはいけない」「話を歪めてはいけない」と警告を発する。どういう意味か。

著名な外交評論家が述べた「日米関係は米中関係だ」という指摘を踏まえ、日本の外交姿勢はどうあるべきか、どうすれば強権化する中国と正対できるのか、思考を巡らせる。

経済安保論の本質を冷静に見抜け

――アメリカと中国の対立が激しくなるに伴い、経済安全保障の論議が熱を帯びています。

日本がアメリカと一体化して中国の脅威を封じ込めるという文脈の中で登場しているのが今の「経済安全保障」論だが、事の本質を見誤ってはいけない。

国民の生活に欠かすことができない食料やエネルギーを途絶えさせないために国は何をすべきか、という本来の経済安保論はきわめて重要で、エネルギー問題については私自身が長い間、携わってきた。

だが、今の経済安保論はさまざまな意味で歪められている。米中対立の激化、日米同盟の強化を盛んに強調する人たちが、政治的な意図に満ちた経済安保論を繰り広げている。

私たちは今、いかに冷静で、かつ事の本質を見抜ける力を持っているかどうかが問われている。まずは以下の数字を確認したい。

2020年、アメリカと中国の貿易総額は5592億ドルで、前年と比べると3億ドル増えていた。一方、日本とアメリカのそれは1833億ドルで、前年比で350億ドルも減った。つまり、コロナ禍で日米間の取引が大きく後退していた時、米中間はしっかり手を握り合っていたということだ。

数字を見れば明らかなように、米中間の貿易総額は日米間のそれの3.1倍にも達している。米中デカップリングだ、新冷戦だと騒がれているが、当のアメリカと中国は、日本とアメリカ以上の取引をしっかりと続けている。

事の本質を見抜かないと、私たちは米中関係に翻弄されることになる。