「IT後進国ニッポン」「なぜGAFAやBATHと渡り合える企業が生まれず、オードリー・タンが現れないのか……」。そんな声があちらこちらから聞こえてきますが、積極的にDXを進めている企業もあるようです。今、“DX”の現場では何が起きているのか――酒井真弓氏の新著『ルポ 日本のDX最前線』から一部抜粋し再構成のうえコーセーの取り組みを紹介します。(敬称略)

厳しい状況が続く化粧品業界

「売上は厳しいです。でも、暗い雰囲気はまったくありません。お客様に直接メイクを施す接客ができないなら、別の形でお客様に届ける方法を考える。前向きに突き進んでいます」、そう語るのは、15年にわたってコーセーのIT化を牽引し、現在、研究所長を務める小椋敦子だ。

コロナ禍において、美容業界は厳しい状況にさらされている。大手のコーセーも例外ではない。2021年3月期(2020年4月1日〜2021年3月31日)の売上高は前年同期比14.7%減、営業利益は67%減と減収減益だった。とくに顕著だったのはインバウンド売上高。前年同期から147億円近く減少し、23億円に終わった。

一方で、ECは好調だ。2020年は、国内のECサイト「Maison KOSÉ(メゾンコーセー)」に加え、中国、欧米もECが伸長。中でも中国のEC売上が前年比45.7%増を記録している。経済産業省によれば、2019年の化粧品・医薬品の市場規模は6611億円。そのうちEC化率は他業界に比べて低く、6%に留まっていた。

ドラッグストアで買える低価格商品の人気や、高価な化粧品は美容部員に相談して選びたいというニーズがEC利用率にも影響していたと考えられる。ところが、2021年1月、美容メディア『mira(ミラ)』の調査によれば、コロナ禍で42.7%が「化粧品の購入方法が変わった」と回答。そのうち81.6%は「ECサイトで購入する」と回答した。

ECの可能性は売上だけに留まらない。ここ数年、化粧品の購買行動は急激に変化していた。ユーザーはネットやSNSで積極的に情報収集し、使ってみてはレビューし合う。人によって合うメイク、合わないメイクがあり、だからこそ探究は止まらない。

店頭での美容部員によるメイク相談が難しい今、コーセーのビューティーコンサルタント(美容部員、以下BC)は、「STAFF START」という仕組みを使い、SNSとECの合わせ技で商品の魅力やメイクの知識を伝えている。自分の投稿がきっかけでどれくらい購入されたのか可視化されるこの仕組みは、BCのモチベーションを高め、売上にも好影響を及ぼすと言われている。