地主になりすまして、他人の土地を勝手に売買する「地面師」。その地面師に2017年、約55億円をだまし取られたのが積水ハウスだ。この事件をめぐっては、当時の和田勇会長と阿部俊則社長が対立し、和田氏が事実上解任されるというクーデターも勃発。大きな注目を集めた。

さらに不可解な動きもあった。地面師事件の全容解明にあたり、積水ハウスが設置した調査対策委員会は2017年に内部調査を実施。2018年1月、取締役会に調査報告書を提出したが、積水ハウスは報告書の詳細について2020年12月まで外部に公表していなかった。いったいなぜなのか。ライターである藤岡雅氏の取材によると、監査役である「大物ヤメ検弁護士」が反対したからだという。

本稿ではライターである藤岡氏の新著『保身 積水ハウス、クーデターの深層』から一部抜粋・再構成し、その内情についてお届けする。

調査報告書の公表が実現しなかった理由

調査対策委員会は、和田が失脚したことで、問題に直面する。公表が前提だった「調査報告書」は、新執行体制の下で「社内報告」とされ、阿部ら4人が「公表しない」と言い出したからだ。

しかし、これはガバナンス上、きわめて問題だった。というのは、調査対策委員会の発足は、取締役会の承認を受けた2017年9月7日にプレス・リリースされ、積水ハウスは「本件(筆者注・地面師事件)の発生に影響した内部要因等の原因を究明し、再発防止策等の協議・検証を行うこと」を内外に約束しているからだ。

そのリリースには、委員となった社外監査役の篠原祥哲、小林敬、社外取締役の三枝輝行、涌井史郎のメンバーも公表されている。社外役員である彼らは、経営を監視する責務を負っている。

しかも、調査報告書には阿部が取引に関与したありさまを問題視して、「重い責任」が指摘された。阿部が「公表しない」と言うのは、恣意的な判断と捉えられる。これを見過ごしては、ガバナンスを担う社外役員のレピュテーション(評判)リスクに直結する。

和田が言う。

「特に調査対策委員会の委員長の篠原さんは、阿部の行いに『筋が通らん』と怒っていた。当たり前や。そこで調査対策委員会は、独自に調査報告書を公表することを検討していました」

だが、委員会による調査報告書の公表は実現しなかった。監査役の小林敬が「取締役会が公表しないというのに、その決定を飛び越して、公表するというのはいかがなものか」と反対したからだ。

取締役会の判断で急遽発足させた調査対策委員会の独立性については、社内で規定があるわけではない。1人でも足並みがそろわなければ、委員会として、公表を求めることは難しかったのだ。

私はなぜ小林1人だけが反対したかに興味を持った。調べてみれば、小林は検事正を最後に、検察官を退任したヤメ検弁護士だった。