新型コロナウイルスの登場により、私たちは政治・経済から行政、科学・医療まで、さまざまな分野で非効率化と劣化が進み、諸外国から周回遅れとなった日本の<いま>にはじめて気づいたのである――。(『作家は時代の神経である: コロナ禍のクロニクル2020→2021』あとがきより)

『黄金を抱いて翔べ』『レディ・ジョーカー』『土の記』など数々の代表作を持つ髙村薫氏が「時代の神経」たる作家の感応力で厳しく、深く日本社会を考察。『サンデー毎日』に連載している週1本の時評をまとめた『作家は時代の神経である: コロナ禍のクロニクル2020→2021』の一部を抜粋し、掲載する。

デジタル庁創設で国は何をしようというのか

(『サンデー毎日』2021年5月2日号より) 

2021年4月6日、デジタル改革関連5法案(①デジタル庁設置法案、②公的給付の支給の迅速化のための預貯金口座の登録に関する法案、③マイナンバーカードの利用による預貯金口座の管理に関する法案、④デジタル社会形成のための関係法律整備法案、⑤地方公共団体情報システムの標準化に関する法案)が衆議院で可決された。63本もの法律を一つに束ね、わずか27時間の審理の末に一挙に採決されたのだが、法案の詳細な中身など当の国会議員たちもろくに把握していないに違いない。仮に把握していたなら、国会はひっくり返っていただろうし、最終的に与党は強行採決しかなかっただろう。

そもそもこの法案は、9月のデジタル庁設置に間に合わせるために急ごしらえで準備され、国会提出後に45カ所もの誤りが見つかるという、粗製乱造を絵にかいたような代物である。加えて準備不足で細部まで詰めることができず、付帯決議だらけになっている由。またその中身たるや、個人情報保護や地方分権に堂々と背を向ける反動的なものとなっており、何かの間違いではないかと思わず二度見したほどである。

まず、デジタル庁設置法案が定義するデジタル庁は、首相をトップとして、全省庁に対して強力な総合調整機能と勧告権を有し、国の情報システムやデータ利活用を統括するとされる。首相の権限をこれまで以上に強化して、国はいったい何をしようというのか。