イノベーションとは、新たな価値を産むための知識の創造である。知識創造とは社会や顧客の生活世界の暗黙知を源泉に、これまでなかったところに価値やビジネス(お金の流れ)を生み出す継続的なプロセスだ。

ただし、私たちの世界では暗黙知が8、9割だという。イノベーションの成功確率も、せいぜい5%以下だ。試行錯誤とは、暗闇を歩くような感覚なのだ(もしそうでないのなら、既存のルートを歩いているだけでしかない)。

そこで、失敗をいつまでもエラー(失敗1)だと考えていると、最終的にプロジェクトが終わるまでエビデンスづくりに奔走することになる。よく言われる「POC(概念実証)疲れ」なども、その変異種ではないか。

逆に、本当はわからないのにわかったようなエビデンスを作為的に並べて進めば、かえってこれは大きなギャンブルになるように聞こえる。

イーロン・マスクが失敗映像を流す理由

エビデンスより重要なのは(こちらが本当のエビデンスなのかもしれないが)、目的に対してどこが至らなかった、という目の前の「失敗2」を見つめることだ。

私たちは、イーロン・マスク氏が率いるスペースX社の宇宙船「スターシップ」ロケットの逆噴射着陸の爆発映像(発射成功映像などではない)を何度も目にしてきた。当初これらは専門家たちの笑い物となった。民間企業が宇宙開発なんて身のほど知らず、というわけだ。

ところが、このショッキングな映像を盛んに流してきたのは、実はスペースXだ。なぜなら、それは「輝かしい失敗」の記録だからなのだ。以前ならこんな映像が出れば、プロジェクトは中止だ。しかし彼らは着実に次の実験を行い、到達していった。そして、最近のヴァージンやアマゾンの低軌道宇宙旅行が現実化しているように、宇宙開発は民間による商業的市場に変わっていった。

輝かしい失敗とは、ダメな事例集ではない。それは真摯に取り組んだにもかかわらず起きてしまう盲点やバイアスについて教えてくれる創造的な発見だ。だから、何か不都合が起きた時点でそれを隠蔽するのでなく、迅速に施策を再検討しなければならない。