生駒山地の北側を迂回するJR路線には学研都市線がある。学研都市線は正しくは片町線といい、長らくローカル色が強い路線だったが、1997年に大阪中心部にJR東西線が開通すると直通運転を開始して急成長を遂げた。

が、この路線も木津駅発着で実際には奈良県内はまったく走っていない。通勤時間帯に一部の列車が奈良駅から出発しているだけである。このあたり、やはり生駒山地を貫く近鉄とは埋めがたい差があるということなのか……。

すっかり近鉄の独壇場、JRの分が悪いように思えてくる奈良県の鉄道事情。とくに大阪方面にばかり目を向ければ、そうした結論になってしまうのも致し方ないところだ。ただ、盆地内には近鉄よりJRという地域もある。

JR桜井線(万葉まほろば線)が卑弥呼の墓とも言われる箸墓古墳(右奥)を横目に走る(撮影:鼠入昌史)

1つは、奈良盆地南東部、日本最古の神社と言われる大神(おおみわ)神社や邪馬台国に比定する説もある纒向(まきむく)遺跡もある万葉の故郷だ。ここにはJR桜井線が走り、「万葉まほろば線」の愛称の通りに歴史ロマンの香りを帯びて列車がゆく。奈良盆地ではるか昔の面影を追うのなら桜井線に乗るべきだ。といっても、主力車両は2019年以降置き換えられた新型車両の227系。そこには万葉の面影はない。

南に延びる和歌山線

もう1つは、京都・大阪・三重以外のもうひとつの隣県である和歌山県とを結ぶ和歌山線だ。和歌山線は吉野口駅付近までは近鉄御所線・吉野線がライバルとなっているが、そこから先は独壇場。中南部にはまったく鉄道が通らない奈良県において、最も南を走るのが和歌山線で、五條市などを経て吉野川に沿って和歌山県に向かう。奈良・和歌山両県を直接結ぶ唯一無二の役割を、和歌山線が果たしている。

桜で有名な吉野までを結ぶ近鉄吉野線。観光特急「青の交響曲」も走る(撮影:鼠入昌史)

かように、奈良県内の鉄道は県北端の奈良盆地において近鉄がワンダーランドを展開し、対抗するようにJRのネットワークも勝負を挑む。結果、それが実に充実した鉄道網につながっているといっていい。新幹線も空港もない山に囲まれた奈良県だが、不便さを感じないのはこうした事情によるものなのだ。さすが、古都、日本のふるさと。どこに行っても柿の葉すしも買えますからね。

鉄道不毛の地・奈良県南部を貫く路線バス「八木新宮線」(撮影:鼠入昌史)

ところで、奈良県は奈良市をはじめ北端の奈良盆地に人口重心が偏りすぎている県である。南部は険しい紀伊山地が横たわる鉄道不毛の地。人口も少なく、これから鉄道が通る可能性もほとんどないだろう。だから、鉄道の旅に限定すると奈良県南部を知る機会はほとんど得られない。

どうしても公共交通でというならば、大和八木駅前から国道168号を延々と南下して紀勢線の新宮駅前までを結んでいる奈良交通の路線バス「八木新宮線」に乗ればよい。約170km、150以上の停留所を越えてゆく、6時間半のバスの旅。日本一長い、路線バスである。

著者:鼠入 昌史