足元は、中国政府による突然の産業規制に対し、世界の投資家が不安を抱いている。そもそも、アリババ傘下のアントグループが計画していた上場が、昨年11月に政府によって中止に追い込まれた。続いて同12月には、アリババとテンセントのグループ企業に対し、独占禁止法違反で罰金を科すと公表された。

また今年の7月2日には、配車サービスのディディについて、中国政府が同社のデータ保護に問題があるとして、配車アプリの新規ダウンロードを禁止した。同社は6月30日にNY市場に上場を果たしているが、7月29日付けのウォールストリートジャーナルによれば、可能性の1つとしてTOB(株式公開買い付け)による上場廃止が検討中だとされている。

さらには、7月24日の諸報道によれば、中国当局が学習塾などの新設を許可せず、そうした学習塾の株式公開も認めないと決定した、と伝えられた。

こうした中国政府の一連の動きについて、その動機がさまざまに推察されている。例えばIT関連企業について、保有するデータがアメリカ市場での上場などによって外国に漏れるおそれがあるからだ、との観測がある。あるいは、中国でも貧富の差が拡大しており、成長しているIT企業やその経営者について怨嗟の声が挙がっている。

さらには、投資家が株式などで利益を得ていることについて不公平感がある(不動産投資を抑制しようとの規制も打ち出されている)、教育コストの上昇についても庶民が不満を持っているなどの声に、政府が対応しようとしているともいわれている。

ただ、動機がどうあれ、世界の投資家が「中国政府が突然どのような産業規制を打ち出すか、予想ができない」と感じれば、「中国株から手を引こう」との動きが強まってもおかしくはない。それが、中国企業に投資を行なっている中国以外の企業についても、不安材料だと解釈される展開となっているわけだ。

米中対立は深刻なまま

中国については、対米関係の悪化は出口が見えない。アメリカのジョー・バイデン政権は前ドナルド・トランプ政権時のような通商問題よりも、中国の人権問題や領土的野心に焦点を当てている。

大枠でのESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)重視の流れもあって、中国の人権問題に対する姿勢を諸国の企業に問う動きが、世界の機関投資家の間で強まっている。日本企業に対しても、「お題目」の人権重視ではなく、その企業が具体的にどのように中国の人権問題に取り組んでいくのか、その企業自身の考え方が大いに問われている。

また米中対立が、南沙諸島や場合によっては台湾海峡をめぐって、安全保障上の問題として大きく浮上する展開も否定はできない。英仏など欧州諸国も軍事艦船を中国の近海に派遣しており、偶発的な衝突のおそれもある。

今のところは、軍事衝突が引き起こされるという展開をメインシナリオに据えるほどの確率だとは見込んでいないし、またいつどのような形で問題化するかも予想しがたい。ただ、その可能性はゼロだと見なせるほどは低くはない、と考えるべきだろう。

このように、長々と述べてきたような「中国リスク」を踏まえると、中国株や中国に関連した中国以外の企業の株価について、平時の「割安」だとの判断を適用することは極めて危ういと懸念している。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

著者:馬渕 治好