経済学がずっと無視してきた、物語と経済の関係を解き明かそうとする野心作『ナラティブ経済学』の邦訳がついに刊行された。本書から、経済予測の精度とナラティブの関係に関する記述を、抜粋・編集してお届けする。

ナラティブは経済学の領域ではない?

ほとんどの経済学者たちは、世間のナラティブなど「我々の領域ではない」と考えたがる。追及すると、大学のジャーナリズム学部や社会学部など他の学部に行ったらどうと言うかもしれない。

だがこうした他の分野の学者は、経済理論の領域に入ってこられない。おかげでナラティブ研究と、その経済事象への影響の研究にはギャップが残る。

1930年代以前に大恐慌が世界的に拡大することをきちんと予測できた経済学者は一人もいないし、2005年のアメリカ住宅バブルの崩壊や、2007〜2009年の「大不況」「世界金融危機」を予測した人もごくわずかだった。

1920年代末の経済学者の一部は、1930年代には繁栄が新たな高みに達すると論じ、その正反対を主張した学者もいた。労働節約機械がずっと人間に取って代わり続けるから、失業は高止まりするというわけだ。

でも、10年にわたりきわめて高い失業が続き、それから通常に戻るという実際の出来事を予測した公開の経済予測はなかったようだ。