客室は時間貸しも可能だ。料金は30分500円からで、「会議だけでなく、お昼寝、英会話レッスンなど気軽に使ってほしい」と、同ホテルの担当者が話す。下北沢に多く居住しているファミリー層の利用も想定している。

一方で、長期滞在者向けには、レンタサイクルの無料利用、近隣の銭湯回数券の提供といったサービスも行う。

レコードプレーヤーを設置した「MUSTARD HOTEL(マスタードホテル)」の客室(記者撮影)

大小さまざまな建物で構成される商業施設「reload(リロード)」(記者撮影)

マスタードホテルの隣に、一足早い今年6月にオープンした商業施設「reload(リロード)もユニークな存在だ。やはり2階建てだが、大きな建物をドンと構えてその中にテナントが入居するのではなく、敷地内には大小さまざまな建物が連なっている。1階と2階を結ぶ階段は不規則に配置され、壁は真っ白。エーゲ海の島の街並みをどこか思わせる。中へ1歩足を踏み入れると、迷路に迷い込んだようだ。

リロードの中をぶらぶら歩くと意外な店が現れるという点では、下北沢の路地裏にも似ている。「回遊と滞留を意識した」と小田急電鉄エリア事業創造部の橋本崇課長が話す。施設のリロードという名前には、「線路の跡地から新しく街が始まる」という意味を込めたという。

「小田急カラー」は表に出さず

小田急は世田谷代田―東北沢間の線路跡地を13のブロックに分け、多種多様な施設を建設する。2016年2月、世田谷代田駅近くに賃貸住宅をオープンしたのを端緒として、2020年4月には認可保育園が開業、区内で課題となっていた待機児童問題の解消の一助となった。さらに店舗・住宅一体型のSOHOと商業店舗からなる商店街「BONUS TRACK(ボーナストラック)も開業した。

音楽アルバムのボーナストラックのように、「本来のアルバムには含まれない余白の部分として、アーティストがやりたいことをやったという意味を込めた」(小田急)。入居者が個々にビジネスを展開するだけでなく、入居者同士が連携して街の盛り上がりに寄与するような活動を推進していきたいという。ボーナストラックには下北沢の名物書店「B&B」が移転開業。ユニークな品ぞろえが集客に一役買っている。

同年9月には世田谷代田の駅裏に小田急グループが運営する温泉旅館「由縁別邸」が開業。宿泊だけでなく日帰りも可能で、隠れ家のような風情が人気を集めている。こうして列挙するだけでも施設のタイプは実に多種多様だが、実際にこの1.7kmを歩いてみて感じるのは、小田急の企業カラーがまったく感じられないことだ。

首都圏の多くの沿線には、駅前に企業名を冠した百貨店やスーパーがある。近年における駅前再開発の成功例といえる「二子玉川ライズ」は東急田園都市線・大井町線の二子玉川駅前を再開発したものだが、東急ストア、エクセルホテル東急、さらに東急系シネコンの109シネマズといった東急グループの店舗、施設が多く連なる。