一見何の変哲もない電車だが、車内に一歩入ると枯山水の庭が一面に――。「江ノ電」の呼び名で親しまれる江ノ島電鉄は10月8日から、車内を「極楽浄土」のイメージでラッピングした「観音電車」の運行を始めた。

沿線にある長谷寺(鎌倉市)の本尊造立1300年を記念した連携企画で、車内は床面から壁までほぼ全面を装飾。運行開始前日には、長谷寺の僧侶による「疾病退散」の法要があり、コロナ収束への願いも込めた。2022年2月末までの予定で、一般の電車に混じって運行する。

全国有数の観光地として国内外からの行楽客でにぎわい、一時は混雑の激しさから「オーバーツーリズム」が問題ともなっていた鎌倉。コロナ禍で観光客数が激減する中、極楽浄土の電車は観光復活の期待を担う。

「歩ける枯山水」の床に金の壁

「観音電車」は、1000形電車の2両編成。外観は緑とクリーム色に塗り分けた江ノ電の標準的なカラーリングで、わずかに側面の窓下に文字のラッピングが入っているのみ。一見しただけでは一般の電車と見分けがつかない。

「観音電車」は一般の電車と同じ塗装だ(記者撮影)

だが、車内は一般車両とは大違いだ。まず目を引くのは床面。砂利や苔を配した枯山水の庭がほぼ全体に描かれ、まるで寺の境内に足を踏み入れたかのような雰囲気だ。壁は金箔のイメージで、渋い金色のグラデーション模様を一面にラッピング。最近の車両では珍しくなった扇風機も金色に仕上げているが、これは本物の金箔貼りだ。通常は広告が入る窓上のスペースには「長谷寺縁起絵巻」を掲出。蓮の花模様を型抜きした中吊りもぶら下がる。つり革の柄の部分は、寺の垂れ幕の色に合わせて赤・黄・緑・紫・白の5色に色分けした。

外観でなく車内を装飾したのは、「お客様が目にしている時間が長いのはやはり客室内」(江ノ電観光企画部専任部長・佐藤克久さん)という発想からだ。長谷寺の総務室次長、山﨑康史さんは「乗った皆さんが驚かれるであろう非日常の車内。枯山水の上を歩くのも通常ではできません」と語る。