「イノベーションには失敗が不可欠」と言うけれど……。では、どんなふうに失敗するのか?

今の社会は、変化のスピードが速く、ますます複雑になってきている。経済や政治でも大規模な変革が続き、過去の知恵や経験に基づく推論は通用しない。予想もしない出来事が次々と起こってくる。今までのように成功体験ばかりを賞賛し、失敗を隠そうとする風潮は不合理だ。失敗は次の成功につながる学びの宝庫である。

今春にオランダのビジネススクールで失敗研究に取り組んでいるポール・ルイ・イスケ教授の著作『失敗の殿堂:経営における「輝かしい失敗」の研究』が邦訳出版された。本稿では、イスケ教授と親交が深く、同書の監訳を担当した紺野登氏が、失敗からの学び方について論じる。

「複雑なシステム」とは異なる「複雑系」の世界

私たちのビジネスがよって立つ世界観やシステムが変われば、これまでの常識や方法は途端に意味を失ってしまう。極端に聞こえるかもしれないが、新型コロナの影響は結構深いところでこんな地殻変動を引き起こしてしまったようだ。

『輝かしい失敗の殿堂』には、「複雑なシステム」と「複雑系」という、異なった世界観が紹介されている。言葉は似ているが、両者はまったく意味が異なる。

前者は「complicated(多くの部分が入り組んでいるややこしい)な世界」、たとえば、多数の繊細な部品でできあがっている精密機器、スイスの高級腕時計や高性能車、航空機のように、複雑多岐なシステムだ。工業社会的な世界観の複雑さだ。

しかし、これらは「大変複雑にできている」ものの、その振る舞いは計算可能で、エラーも防げると考える。万が一の事故は起きるが、それらの失敗の多くは人災(ミス)であったりするので改善できる。

そこで、失敗を解析し、未然の対策を講じようとするわけだ。いわば失敗への科学的分析的アプローチである。こうした失敗の研究には、悲惨な航空機事故の例などが多いように見える。多数の部品からなる精密機械は複雑だが、個々の構成要素の役割は明確で、その振る舞いは予測できる。