米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。

独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

オーストラリアの原潜はまだまだやって来ない

アメリカ、イギリス、オーストラリアの3カ国で新たな安全保障パートナーシップを形成し、アメリカ・イギリス両国がオーストラリアに対して原子力潜水艦の技術を供与することになった。AUKUS(豪・英・米:オーカス)である。厳重に情報管理された秘密交渉を経て突如なされた2021年9月15日の発表は、世界を驚かせた。これによってオーストラリアとの潜水艦契約を破棄されたフランスが激しく反発したのは当然である。

ただし、議論の出発点として忘れてはならないのは、今回の発表は原潜計画を進める意図の表明にすぎず、詳細は今後18カ月をかけて練られるということだ。

今後すべてが順調に進んでも、「少なくとも8隻」とされるオーストラリアの原潜がすべて整い、完全な運用態勢に到達するのがいつになるかは、見当すらつかない。最初の原潜の就役が早くて2030年代後半といわれる。つまり、まだまだ先の話である。

その間には、新たな潜水艦の設計、建造のためのインフラ整備、実際の建造、オーストラリアの運用要員の訓練、運用に必要なメンテナンス体制や指揮命令系統の整備、などが必要になる。

そもそも、AUKUSを受けて破棄されることになったフランスとの次期(通常動力)潜水艦の計画は、以前から作業の遅れと予算の肥大化に悩まされていた。AUKUSのみ当初想定どおりにすべて順調に進むと考えることには無理がある。アメリカ・イギリス政府が強いコミットメントを示しているため、実現に至る可能性が高いものの、華々しい発表の後、これからが勝負である。