財務省事務次官の矢野康治氏が、11月号の『文藝春秋』に「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」と題した論文を発表。積極財政派の高市早苗・自民党政調会長など一部の議員がこれに猛反発するなど話題を集めている。

論文の内容は、ファクトを中心にまとめられ、手堅いものだ。一方で、第2次安倍晋三政権以降、首相や官邸が決めた政策に対して、省庁の官僚が言うべきことを言えない風潮がまかり通っていただけに、そうした政治状況に一石を投じる効果も大きかったようだ。

政治家と官僚の関係はいまどうなっているのか。小泉純一郎政権で内閣官房内閣参事官を務め、その後、厚生労働省年金局長、同省雇用均等・児童家庭局長、在アゼルバイジャン共和国日本国特命全権大使などを歴任した上智大学香取照幸教授に話を聞いた。

――矢野氏への批判の1つに、「選挙で選ばれたわけでない公務員が政治家の政策決定に口をはさむな」というものがあります。

最終的に政策を決めるのは政治家だというのは当然だ。民主主義国家なのだから国民に対して最終的な責任を負っているのは政治家であり、官僚は政治家に仕えるのが仕事だ。人事を含めて、政治家が統率することは間違っていない。

問題は、その政策をどのように決めているかだ。それは、官僚機構というマシーンをどのように使いこなすかであり、政治家には使いこなす能力が要求されている。それこそが指導力やマネジメント能力というものであって、民間企業の経営者に求められているものと同じだ。

官僚機構を動かすには、そもそも官僚機構の動かし方をわかっていないといけない。組織は人間によってできているのであり、組織はどう作られ、官僚とはどんな考え方をする人間なのか、どのように指示をすればどのように官僚は行動するのか、といったことを知っている必要がある。

基本的な関係は「経営者と部下」

――民間企業における経営者と部下の関係にも共通するものですね。

経営者もそうだが、政治家が人の意見を聞く耳を持っているかが非常に重要だ。政治家には当然、自分のやりたいことがあって、信念や理想もある。しかし、世の中の正解は一つではない。世の中にはいろいろな考え方があるし、同じ山でも登り方はいろいろだ。他者の意見を聞いて議論をして初めて物事は決まる。

「私はこう思うからこうする」というのは、信念と呼ぶこともできるが、独りよがりになる危険もある。官僚機構は、同じ仕事をずっとやってきた専門的なプロ集団だ。もちろん、政治家は官僚機構とは別の情報源やチャネルを持っており、官僚機構の言うとおりにやる必要はない。しかし、実際に政府の仕事をしてきた人たち(官僚)がどう考えているか、今の制度はなぜこのように作られたのかなどを聞いてセカンドチョイス、サードチョイスを考え、状況に合わせて物事を判断していく必要がある。