アメリカでは12歳未満下はワクチン接種を受けていないため、12歳未満の客は一切入場できない。つまり会場内に幼い子どもが1人もいない状態だ。試合中にコート内を走り回って選手のためにボールを拾うボール・パーソンは14歳以上の少年少女で、彼らも全員がワクチン接種完了済み。主審はいるが、コートの端に立つ線審はいない。

コンピューターシステムの「ホークアイ」が高速カメラによってボールのインとアウトを判断し、録音された人間の声で判定が下される。コンピューター判定に選手が意義申し立てすることはできない。

各選手のタオルはコート脇の「1」と「2」と番号が書かれた箱にそれぞれ置かれ、選手以外の他人がタオルに手を触れることはない。

激しく咳をする選手にどよめき

そんな中、ブルガリア出身のディミトロフ選手が準決勝まで勝ち進んだ。彼を熱狂的に応援していたのが、サンディエゴ在住のブルガリア系アメリカ人の応援団十数人だ。

「この30年間で祖国の選手がここまで勝ち進んだのは初めて」と興奮して語るのはブルガリア国旗を振って応援団を率いるアメリア・ゲンチェブさん。会場の電光掲示板に「MAKE NOISE(大声を出して応援して)」という表示が出ると、ゲンチェブさんたちは大きな叫び声を上げ、ビニールの応援用具を叩いて音を出した。

会場の電光掲示板には「MAKE NOISE」の文字が出て観客に声出しを奨励(写真:筆者撮影)

彼女のグループはほぼ毎日、片道3時間、つまり往復6時間かけてメキシコ国境近くのサンディエゴから、砂漠地帯のインディアン・ウェルズまで応援に通っていた。「会場近くのホテルに泊まることも考えたけど、やっぱりコロナが怖いし、クルマで通ったほうが安心だと思うから」とゲンチェブさん。

ディミトロフ選手が勝ち進む度に、彼女たち応援団は会場内に設置された屋外のモエ・シャンパン・ラウンジで、シャンパンを飲んで祝杯を上げていた。ワクチン接種完了済みの仲間たちと、屋外でお酒を飲んで騒ぐのは怖くないが、現地ホテルに宿泊するのは感染するかもしれないから不安だということらしい。

会場内のモエ・シャンパンの野外ブースでお酒を飲みながら歓談する客たち(写真:筆者撮影)

通常より観客数が少ないためか、ディミトロフ選手もこのブルガリア応援団と試合終了後に何度も一緒にコートサイドで写真を撮っていた。

そんな中、世界ランキング3位でギリシャ出身のステファノス・チチパス選手がある試合後、コート上でのインタビュー時に激しく咳をしていた。インタビューを担当したアナウンサーは2メートル以上離れてソーシャルディスタンスを取っていたが、それでもコートサイドで撮影していたカメラマンたちや観客から小さなどよめきの声が上がった。

「インタビュー前に水をがぶ飲みしていたからむせたんだろう」と言う運営関係者もいた一方、「チチパスは、コロナワクチンの接種をする必要は感じないとはっきり公言していた選手だから、近くにいるのが正直怖いよ」と語る運営関係者もいた。