地域金融機関を取り巻く経営環境は厳しさを増していますが、生き残りをかけて前例のない戦略を打ち出す地銀も出てきています。その1つが島根県、鳥取県を地盤とする山陰合同銀行です。どんなことをしているのか、金融ジャーナリストの浪川攻氏が解説します。

※本稿は『「型破り」な銀行の新ビジネス戦略 “みずほ”敗因からの教訓』から一部抜粋・再構成したものです。

金融業界が驚いた野村証券との包括業務提携

島根県、鳥取県を地盤とする山陰合同銀行は山陰地方のトップ銀行であり、地域に根差した堅実な経営に定評がある。いかにも地銀らしい地銀と言える。しかし、その一方で地盤とする2つの県は鳥取県が人口の少ないトップ県であり、島根県はその次に少ない。地方型経済社会の典型的な地域と言っていい。

そこで、同銀行は2021年3月までの中期経営計画のとおりに、33カ店の店舗統廃合などを通じて戦略的なコスト削減を進めてきた。それもあって、経費率(OHR)は2021年3月には60.58%まで低下し、さらに2022年3月には57.79%まで引き下げていこうとしている。

そんな山陰合同銀行をめぐって、金融業界が「あっ!」と驚き、目を見張った出来事が起きたのは2019年8月26日のことだった。証券業務について野村証券と包括的な業務提携を締結することを発表したからである。

地銀業界ではそれまでも、証券会社と提携し合弁形態の証券子会社を設立したりする動きはあった。したがって、証券会社との提携は目新しい話ではない。しかし、この包括業務提携の内容は斬新だった。山陰合同銀行が野村証券の金融商品仲介者として提携し、同銀行と野村証券が山陰地域で融合するというモデルであるからだ。

1980〜90年代にかけて欧米で起きた金融革命を巡って、当時の欧米諸国では、その革命的な動きをメタモルフォーゼという言葉で象徴的に言い表した。さなぎが蝶へと姿を変える変容であり、昆虫の変容は、殻にこもったさなぎが一度、溶けて再生するプロセスを経るケースもあると言う。

つまり、メタモルフォーゼは生物としての劇的な変化である。ギリシャ神話の「テセウスの船」(より良い船を目指して改良を重ねて、ある時、以前とはまったく異なるものになっていたというパラドックスの逸話)を彷彿させるような変化である。当時の金融革新は、それほど激しい金融革命ととらえられていた。