ロシアのプーチン大統領はウクライナの東・南部4州で一方的に実施した「住民投票」を受けて、2022年9月30日に4州の「併合」を発表した。しかしその直後にウクライナ軍が東部要衝を奪還するなど4州での戦況はますます悪化しており、併合の言葉とは裏腹の空しい「領土拡大」宣言となった。

「部分動員」をめぐる混乱も収まっておらず、戦争で主導権を失ったプーチン氏は、国内政治でも政権発足以来20年間握ってきた独裁者的な指導力に陰りが生じている。モスクワでは「ポスト・プーチン体制」への移行に向けた臆測も流れ始めており、プーチン政権は揺らぎ始めている。

異様な「併合宣言」の中身

今回の「併合」宣言が異様なものであることを象徴したのが、2022年9月30日にクレムリン内で行われたプーチン氏の国民向けの演説だ。40分余りの演説では、最後まで戦況に言及しなかったからだ。

本来であればルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの計4州を完全に制圧した後に、「戦勝報告」とともに併合を宣言することをプーチン氏は狙っていたはずだ。しかし、実際には制圧どころか、4州全域でウクライナ軍の反攻作戦の勢いに押されまくっているのが現実だ。このため、制圧もしていないままでの看板だけの不本意な「併合」宣言となった。

侵攻をめぐってプーチン氏は演説の中で、ウクライナ側に対し戦闘停止と交渉開始を呼び掛けたものの、併合した4州をめぐっては交渉の議題にはならないとの強硬姿勢を示した。これでは、ウクライナが交渉に応じる可能性はなく、事態打開には程遠い内容だった。演説会場の広間に集まった政権最高幹部の面々が浮かない顔だったのもこのためだ。

だが、この演説で「戦況スルー」以上に内外を驚かせたのは、プーチン氏が演説の半分以上の時間を費やして、米欧に対する憎悪、嫌悪をむき出しにしたことだ。近年、「集団的西側」などの表現で米欧への敵愾心を打ち出しているプーチン氏だが、この日の演説は米欧に対し、積年の恨みをぶちまけるような内容だった。

「西側が中世以来、植民地政策を始めた」ことから説き始め、アメリカのインディアン虐殺やイギリスのアヘン戦争にも言及しながら口を極めて批判した。さらに日本への原爆投下にも言及し、いまだにアメリカが日本やドイツを「占領している」と訴えた。西側での同性婚の広がりを揶揄して、多様性を重視する米欧文化を否定する場面もあった。

これはウクライナ侵攻を契機に対ロ包囲網を築いた西側に対する、事実上の「断絶宣言」とも言えるものだ。ロシア軍を苦境に追い込む大きなゲームチェンジャーとなった高機動ロケット砲ハイマースなど高性能兵器をウクライナに提供し続ける米欧に対し、もはや妥協をしないという宣言にも等しく、プーチン氏は外交的に退路を断ったと言える。