昨年来悪化していた半導体市況は早くも底打ちした。今世界規模で起きているのが、官民入り乱れた半導体工場の投資合戦だ。『週刊東洋経済』の10月2日発売号(10月7日号)の特集は「半導体 止まらぬ熱狂」。熱狂する半導体業界を取材した。日本でも、この局面を最大のチャンスと捉え、矢継ぎ早に戦略が打ち出されている。戦略物資と化した半導体の今に迫った。
TSMCの熊本県への誘致をはじめとする〝半導体フィーバー〟に沸き立つ九州だが、深刻なのはエンジニアなどの専門職の枯渇だ。九州経済産業局は、九州の半導体産業だけで年間1000人規模の不足が今後10年続くと予測する。設備投資の拡大が続いた場合、さらに人手が足りなくなる可能性もある。
とはいえ優秀な技術者は国内外で引っ張りだこ。経験者の大量採用は現実的に難しい。職種によっては数年単位の養成期間がかかることを踏まえても、「自前で育て上げるのが1周回って最大の近道だ」(同局幹部)。
「金の卵」を確保しようと、九州では、各県の半導体関連企業や自治体、大学を中心に約90機関がコンソーシアムを結成。子どもや学生への教育から即戦力の創出まで、約170のプロジェクトが動く。産学官「オール九州」による人材育成の取り組みを追った。
子どもや学生を無償で研修
直径200ミリメートルのシリコンウェハーを専用器具でつまみ、しげしげと眺める。キラリと反射した円盤には、水色の防塵(ぼうじん)服に身を包む若者の真剣なまなざしが映った。熊本県水俣市の研修センターで9月、九州の高専生11人がクリーンルームを見学。ほかにも洗浄や露光、成膜など半導体製造に欠かせない各装置を巡回した。熊本高等専門学校4年の山田晴己さん(18)は「教科書で得た知識が現実とリンクした」と目を輝かせた。
参加者は久留米と佐世保、熊本の各高専の学生。民間資格の「半導体技術者検定エレクトロニクス3級」を今冬に受験予定で、その対策のために臨んだ4泊5日の研修だった。