だが2018年、政権交代によって親日派の政治家として知られるマハティール氏が首相に返り咲き、流れが変わった。

同氏はHSRプロジェクトについて「コスト削減と財政健全化を目指す政策の一環」と称して、これを棚上げ。それまでにシンガポールが、プロジェクトに対する計画策定と初期の開発段階で相当額を出資していたことから、マレーシアが補償金を出す合意もなされた。

プロジェクト復活、今後の動きは?

ところが、事態はその後大きく変わってきている。2023年7月にはプロジェクト復活の方向性が示され、2024年1月にはマレーシア側でHSRプロジェクトを仕切っている「MyHSR」が7つの国内外のコンソーシアムからコンセプト提案を受領した。これらの提案は、いわゆる「設計・資金調達・建設・運営・移転(DFBOT)モデル」に基づくパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)としての遂行を前提として出されたものだ。

シンガポールマレーシア高速鉄道計画

ただ、この際に日本企業の動きはなかったもようで、日本の新幹線システムの活用を目指していたJR東日本を含む日本企業は「計画への参入を断念」したと報じられた。これは、マレーシア政府の財政支援などがなく、リスクが大きいとの判断があったためとされる。このプロジェクトは総工費が1000億リンギ(約3兆1000億円)にのぼる見込みだが、マレーシア政府は債務保証や財政支出をしないという決定が逆風となった。

1月の時点で、提案の評価と選定に「2〜3カ月かかる見込み」とされていることから、遠くない将来に何らかの結果が発表される可能性があるが、中国がマレーシア企業と組んで本プロジェクトに携わることになるだろうか。

コーズウェイ 鉄道 コーズウェイを渡る「イースタン&オリエンタル・エクスプレス(E&O)」。RTS開業や高速鉄道計画で鉄道も変化が予想される(筆者撮影)

マレーシアとシンガポールは現在、物価の格差が著しい。そのため、マレーシアからの出稼ぎ者が毎日大挙してシンガポールに通勤している。シンガポールの繁栄はマレーシアなしに実現できない、という背景もある。今後の鉄道インフラの増強とともに両国間の行き来はどのように変化していくのだろうか。

著者:さかい もとみ