フィリピン政府はアユンギン礁に補給船を送る際に内外のジャーナリストを同乗させたり、ドローンで撮影した映像を公開したりして中国側の「いじめ」を可視化させ、世界の世論に自らの立場と中国の不法を訴えてきた。

3月23日の衝突では日米だけではなく、英仏独や欧州連合、豪州、ニュージーランド、カナダなどが一斉に中国批判の声を上げたのはその成果ともいえる。

中国の攻勢が増す局面で、3国関係を強化する今回の首脳会談は、安全保障環境の多角化を図るフィリピンにとっては渡りに船である。

議論なき日本はどうするか

それでは日本にとって「3国(準)同盟」の意味はなにか。岸田政権は前のめりだが、一般の国民はもとより、ジャーナリズムや論壇でもさほど関心が高まっているようにはみえない。

論評や報道は主に安全保障専門の学者やコメンテーター、防衛省、外務省の担当者らによってなされている。いわばそれで飯を食っている人たちによる発信である。ほとんどが日本政府と同じく、フィリピンへの防衛協力や連携強化を当然とする前提に立っているようにみえる。

マルコス政権は米比の防衛協力強化協定(EDCA)に基づき、アメリカ軍が使用できるフィリピンの基地を以前の5カ所から9カ所に増やした。

その4カ所のうち南シナ海の最前線にある西部パラワン州の1カ所を除く3カ所はルソン島北部に位置する。同島北端から台湾最南端の距離は沖縄・那覇からの距離の半分以下だ。台湾有事を念頭に置いた選定である。

台湾有事となれば巻き込まれることが避けられない日本としては、フィリピンの基地からも出撃可能というアメリカの牽制に多少なりとも抑止効果があるとすれば意義はあろう。

他方、南シナ海は状況が異なる。石油やガスをはじめ物資の輸入に欠かせない重要なシーレーンであることは間違いない。それでも紛争が起きたとして、台湾有事や北朝鮮からのミサイル着弾に比べて現場が日本から遠いだけでなく、国民の危機意識や切迫感は格段に低いだろう。