一方、地政学リスクだけでなく、需給面でも将来的に引き締まってくるとの見方も、原油先物相場を一段と堅調なものにしている。3月初め、OPEC(石油輸出国機構)と他の有力産油国で構成されるOPECプラスは、年初から行っている自主的な追加減産を、6月末まで継続することで合意した。

OPECの生産量は1月に減少した後、2月にはいったん増加していた。これは主に減産の履行を免除されているリビアやナイジェリアなどの生産が増えたことによるものだった。

だが、これらの産油国は国内情勢が安定しておらず、この先、反政府勢力の攻撃などによって生産が再び落ち込む可能性も高い。OPECプラスが追加減産を決めたからと言って、今後も100%順守されるという保証はない。だがOPECプラス全体でそれなりに減産体制を維持していくことができるなら、世界市場は供給不足の状態が続くことになりそうだ。

またOPECプラスに入っていない、その他の産油国の生産状況にも十分な注意が必要だ。OPECプラスが減産を進めているにもかかわらず、ここまでさほど需給が逼迫しなかったのには、アメリカ、ブラジル、カナダなどの生産がそれ以上のペースで増加した部分によるところが大きいと考える。

アメリカのシェールオイル、カナダのオイルサンド、ブラジルの深海油田などは生産コストの高い油田からのものが多く、このことには常に注意が必要だ。最近までの価格低迷で採算が合わずに苦しんでいる油田もあり、原油の価格動向によっては、この先、予想ほどに生産が伸びてこないことも十分にありうる。これも潜在的な価格下支え要因となる。

アメリカ主導の制裁で、ロシアの生産は一段と減少も

さらに、OPECプラスの有力国である、ロシアの生産動向にも注意を払っておきたい。不正確な情報が多く断定はできないが、アメリカ主導の制裁の効果で、同国の生産量が徐々に減ってきているとの見方も浮上しているからだ。

欧米側は「ウクライナを攻撃するための資金源になる」との理由で、ロシアの石油収入を抑え込むために多くの制裁措置を打ち出してきた。もちろん現時点でロシア産の主な買い手となっている中国やインドが素直に制裁措置に応じることはありえない。だが、それでもタンカーなどの輸送手段や資金の決済を行う金融機関に圧力をかけ続けた結果として、ロシアの輸出量は減ってきているようだ。

3月12日にはOPECとアメリカのエネルギー情報局(EIA)が月報を発表しているが、それらによると、どちらも今後のロシアの生産見通しを下方修正している。もしOPECプラスによる追加減産に加えて、主要国のロシアの生産が一段と減少するようなことになれば、世界需給の逼迫ペースも速まり、相場を一段と大きく押し上げることになる。

これからアメリカでは定期点検を終了した製油所が稼働率を引き上げ、ガソリンの生産を加速させる一方、ドライブシーズンが本格化するにつれ、ガソリンの需要は増加、4月以降5月後半にかけては相場も上昇基調が強まることが多い。こうした季節的な需給増も後押しするとなれば、中東情勢が大きく悪化しなくても、1バレル=90ドル台までは楽に値を切り上げることがあっても何ら不思議ではない。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

著者:松本 英毅