「本業への貢献」:フックと回収エンジン

では、実際にどのように「本業への貢献」を描けばよいでしょうか。思考の武器として「フック」と「回収エンジン」をご紹介します。事業を、顧客を引き付ける「フック」と、収益を得る「回収エンジン」の2つに分ける考え方です。

「フック」とは、顧客の獲得や集客を目的としたサービスや機能のことです。顧客に伝わりやすい価値と、他社との明確な違いを持つことが重要であり、必ずしも利益を生む必要はありません。一方で、「回収エンジン」は利益を回収するための儲かるサービスや機能を指します。

Googleの例が分かりやすいでしょう。彼らは無料で提供する多くのサービスをフックとして、顧客を惹きつけ広告事業という回収エンジンにつなげています。ポイントはフックによって獲得した顧客を回収エンジンに誘導する仕掛けです。

の考え方を用いることで、新規事業をフックに、本業を回収エンジンとするストーリーを描きやすくなるでしょう。

最後に、本業への貢献ストーリーを描きやすい、新規事業開発の問題を回避しやすくするフレームワークをご紹介します。野村総合研究所(NRI)で活用している「NRI版ビジネスモデルキャンバス」です。これは、Strategyzerの「The Business Model Canvas」をベースに、NRIの支援事例を踏まえて拡張したものです。

このキャンバスを用いることで、具体的には「自社ビジョン・戦略との整合性」の項目で、「本業への貢献」を漏れなく検討することができます。また、「拡大シナリオ」と「事業リスク・撤退シナリオ」において、「見ざる:無理のある計画に目をつむる」の問題回避の策を考えておくことができます。

さらに、顧客への提供価値を真ん中に据えて常に意識することで「聞かざる:顧客の声を聞かずに当初プランに固執する」問題に対処します。最後に、重要な意思決定ごとにキャンバスを記録しておくことで「言わざる:リスクを経営層に言わずにリリース直前に揉める」の問題を回避します。

従来のビジネスモデルキャンバスも強力なツールですが、企業内での新規事業開発をしやすいように調整しています。そして、キャンバスを描くことを楽しみながら、事業開発へのチャレンジを前向きに続けていただければと思います。

著者:八木 創,紺谷 亮太