ところが、民間企業は、ラピダスへの出資に及び腰だ。同社は2022年8月に設立され、トヨタ自動車、ソフトバンク、ソニーグループなどが出資するが、総額は73億円にとどまっている。

「最先端の半導体はうちには必要ない」「技術的なハードルが高く、本当に実現できるか見通せない」(2023年11月23日付朝日新聞、「政治案件」の半導体支援、民間から冷たい視線 責任負うのはだれ?)と、経産省が主導した国策事業に苦い過去があることを考えれば、民間企業の及び腰も当然だ。

半導体産業については、「日の丸半導体復権」をかけて、電機メーカーの半導体メモリー事業を統合した「エルピーダメモリ」が1999年に発足した。しかし経営に行き詰まり、公的資金活用による300億円の出資を受けた。それでも事態は好転せず、2012年2月に会社更生法の適用を申請し、製造業として史上最大の負債総額4480億円で破綻した。

「日の丸液晶」をめざした「ジャパンディスプレイ(JDI)」は経営難が続く。

同社は、ソニー、東芝、日立が行っていた液晶画面事業を合体して2012年に作られた。産業革新機構が2000億円を出資し、国策再生プロジェクトとしてスタートした。ところが、2019年に危機的な状態になり、産業革新機構から追加の出資がなされた。赤字の民間企業に国の金を投入し続けることに対して批判があったが、2018年12月10日、産業革新投資機構の民間出身の取締役全員が辞職。革新機構は機能を停止した。

補助金漬けになって弱体化した

高度成長期において、日本の製造業は国の直接介入を拒否した。それを象徴するのが「特振法」だ。

1962年、通商産業省は外資自由化に備えて日本の産業の再編成を図ろうとし、「特振法」(特定産業振興臨時措置法)を制定しようとした。しかし、当時の経団連会長の石坂泰三は、これを「経済的自由を侵害する統制」「形を変えた官僚統制」として、退けてしまったのである。外資による買収を防ぐより、政府に介入されないことのほうが重要と考えたのだ。

この当時、政府による保護策の対象は、高度成長に取り残された農業だった。ところが、1990年代の中頃から、この構造が変わってきた。競争力を失った製造業が政府に救済を求め、政府がそれに応えて介入するようになってきた。