開発陣はこの隙間に「辛さだけではない、スパイス感を求めるニーズがある」と考えた。数多くのスパイスを用いて、スパイスが主役のカレーを作れば広く受け入れられるのではないか。開発の方針は固まっていった。

スパイスが主役なだけに、通常は調味料を駆使する「コク」も、香りで打ち出そうと画策。ハウスのカレールウ製品の中では、数十種類と過去最多レベルのスパイスを使用することになった。

「中辛」の栄養成分表示には実に多種多様なスパイスの名前が並ぶ(記者撮影)

スパイスは同じ種類のものでも産地や加工度によって特徴が異なる。スパイスの選定には7カ月、通常の3倍もの時間を費やした。

また、スパイスは組み合わせる種類が多いほど、風味がとがらずにまとまる傾向がある。調合を工夫し、トレンドであるインド風スパイスの特徴を出しつつ、子どもから大人まで食べられる「おうちカレーらしさ」にもこだわった。

スパイスの香りがしっかりと立つようにカレーのベースも刷新し、調味料や油脂、小麦粉のバランスなども調整。その結果、3000回以上も試作を繰り返した。新機軸の商品は、ひたすら地道な調整の繰り返しだった。

バーモント値上げ後の客離れを防ぐ役目も

商品を担当した食品事業本部の山本篤志氏は「ごはんの甘みに負けない味付けで、香りも味もスパイスで表現したのがクロスブレンドカレーの特徴。ベースはシンプルにしながら、技術でスパイスの味を引き立てている」と解説する。

風味に加えて、クロスブレンドカレーにはもう一つ、重要な使命もあった。主力のバーモントカレーが値上げを実施する中で客離れを防ぎ、値頃感のある価格帯で勝負することだ。

クロスブレンドカレーは8皿分・140グラムの参考小売価格が258円(税別)、バーモントカレーは6皿分・115グラムが希望小売価格241円(税別)だ。単純比較で、1皿当たりの価格はクロスブレンドカレーが2割ほど安い。

ハウスは独自の加熱・焙煎技術でスパイスの香りと旨みを引き出し、多くの種類のスパイスを用いても価格を抑えられたと説明する。ただ、この点にはもう一段の企業秘密と努力がある。カレーベースの開発やマーケティングなどでも、多方面でコストを抑える工夫を凝らしているようだ。