例えば、チューリッヒとその郊外とを結ぶ列車のケースだ。ここでは電気機関車1両と客車3両を1組とした編成の列車が走っているが、これが週末には1組だけで運行する一方、平日のピーク時には3〜4組(最大16両)を連ねて走る。ダイヤは変わらないものの、車両数の増減で輸送力を調節しているわけだ。時間帯によって、プラットホームの特定の場所にしか列車が停まらないといった問題はあるが、需要と供給のバランスを取りながら「資源の最適化」を図る姿勢は特筆できよう。

チューリッヒ S-bahn DOSTO 2階建て電車が走るチューリッヒの郊外路線(筆者撮影)

タクト・ファールプランを基に列車やバスを走らせているスイスの交通オペレーターは、鉄道、バス、トラムなど異なる交通機関同士の連携を密に行い、乗り換え時間を可能な限り詰めることで全体の移動時間を短くできるようダイヤが引かれている。常に各交通機関の運行状況がリアルタイムで情報提供されているため、例えば列車が遅れた場合は、バスは乗り継ぎの客が乗車するまで出発を遅らせることがある。

車内案内表示器 パラディーゾ(Paradiso)駅到着直前の列車内表示器。同駅で接続する列車とバスがすべて表示される。2番バスは3分遅れの表示が出ている(筆者撮影)

運行状況や旅客需要がデータとして蓄積されていることから、定期的なスケジュールの見直しの際も、運行効率の改善や利用者のニーズに応じて実効性のある調整ができるというわけだ。

国際列車も連携図る

タクト・ファールプランでは、15〜30分ヘッドの通勤列車や国内の都市間特急、ローカルバスの接続連携を図っているものの、スイスの鉄道網を走る列車はそれだけではない。ダイヤが他国にも影響する国際列車などはどのように位置づけているのだろうか。

スイスでは目下、鉄道による国際間接続の強化を重視し、他国とのルート拡充を積極的に図っている。フランス方面行きの高速列車TGV Lyriaをはじめ、ドイツとを結ぶICE、そしてオーストリア方面に向かうRailjet(レイルジェット)、そしてイタリアへのユーロシティといったような列車も一定の規則性のある出発時間に運行される仕組みとなっている。近年では、スイス乗り入れの夜行列車Nightjet(ナイトジェット)が増加傾向にあり、「環境に配慮しながら夜のうちに遠くに行ける旅行手段」として改めて注目されている。

ナイトジェット チューリッヒ発アムステルダム行き チューリッヒ中央駅に停車中のオランダ・アムステルダム行き夜行国際列車「ナイトジェット」(筆者撮影)

チューリッヒ トラム チューリッヒ中央駅前を走る路面電車(筆者撮影)

タクト・ファールプランの取り組みは、単なるダイヤの調整だけでなく、常に利用者のニーズに応じたサービスの最適化を行いながら、昨今欧州で叫ばれている環境にやさしい持続可能な交通システムとなるべく、大きな役割を果たしていると言えよう。「乗り継ぎ時間が常に的確に短いから便利」という利用者の満足度を高めるために、異なる交通機関の垣根を越えた工夫と努力が重ねられている。

著者:さかい もとみ