あなたは一計を案じます。「そうだ、ここは認めてしまって、あとで『本当はこういうことでした』と言い訳すればいいや」。

「やりました。ええ、私がやりました」

「じゃあ、誰に頼まれてやったんだ」

「いや、それはわかりませんねえ」

「詳しく話せ」

いやはや、時間を稼ぐつもりが、とんだ藪蛇になったかもしれません。警察からすると、単に「やりました」と言われただけでは、自白をしたことにはなりません。

こういう場合、対外的には「容疑をほのめかす供述」と発表することになります。

調書が巻けない!

別のケースもあります。

暴力団捜査を担当している刑事がよくこんなことを回想します。

「〇〇の奴、『俺がやった』って容疑は認めるんだけど、調書を巻かせてくれねえんだよな」。巻くというのは、供述調書を作成することです。なぜそう呼ばれるようになったのかはっきりしませんが、江戸時代以前は調書が巻物だったからではないかといわれています。

容疑は認めるけれども、供述調書という形に残るようにはさせない。こうなると、警察としては困ったことになるのです。

逮捕された容疑者は供述調書を取られます。供述調書は大別すると「員面調書」と「検面調書」の2種類があります。どちらの調書も正式に裁判所の公判廷に提出されます。乙号証と呼ばれ、罪状の確定や情状に大きく影響する大事な証拠です。

ところが、暴力団関係者の場合、多くの場合は犯罪慣れしていますし、しかも上層部の組長を巻き込んだ事件だったりすると、下手にペラペラとしゃべろうものならシャバに出たあと命すらあやうくなりかねない……。そう考えて、調書を巻かせないよう画策することがあるのです。

供述調書は、自白が本人の意思に基づいてなされたかという「任意性」と、供述が事実かどうかという「信用性」の二つがそろっていないと証拠価値がありません。ですから調書の末尾に容疑者が氏名を自書(サイン)するのが普通です。そこで、サインを拒否し、自分の供述に任意性を持たせないようにするのです。