本来であれば格差問題の解決に取り組むべきリベラルが、なぜ「新自由主義」を利するような「脱成長」論の罠にはまるのか。「令和の新教養」シリーズなどを大幅加筆し、2020年代の重要テーマを論じた『新自由主義と脱成長をもうやめる』が、このほど上梓された。同書著者の一人でもある中野剛志氏が、マクロ経済政策の視点から財政政策を論じる。

「積極財政派」「財政再建派」2つの提言

自由民主党には、積極財政派の財政政策検討本部(本部長・西田昌司参院議員)と財政再建派の財政健全化推進本部(本部長・古川禎久元法相)とが存在し、それぞれが岸田文雄首相に提言書を提出した。

同じ政党内で、財政政策に関し、対照的な提言が行われるというのは、実に興味深い。議論もせずに見解を統一させるよりも、自由な論争を続けることのほうが重要であり、それこそが自由民主政治のあるべき姿であろう。

もっとも、政府の財政制度等審議会(財政審)や経済財政諮問会議の民間議員の提言は、自民党とは異なり、一枚岩になって、財政再建派のほうに与している。

例えば、財政審は、建議「我が国の財政運営の進むべき方向」の中で、こう述べている。

「既存の社会経済システムを大胆に変革することで、企業の投資を促し、民間主導の自律的な経済成長を実現していくとともに、財政健全化に向けた揺るぎのない姿勢を国内外に示し、財政に対する市場の信認を確保していくべきである。そのためには、現行の財政健全化目標(2025年度の国・地方のプライマリーバランス黒字化、債務残高対GDP比の安定的な引下げ)を堅持し、その実現に向けて、規律ある「歳出の目安」の下で歳出改革の取組を継続すべきである。(中略)現行の財政健全化に向けた取組を一歩も後退させてはならず、政府は高い緊張感を持って財政運営に臨むべきである。」

これに対して、自民党の財政政策検討本部の提言は、プライマリーバランス黒字化目標に「断固反対」だとして、財政審の建議と真っ向から対立している。

しかし、この提言を実際に読みもせず、「政治家によるバラマキの要求」などと侮ってはならない。というのも、そこに書かれているのは、簡潔だが、驚くほどレベルの高い理論的な内容だからだ。