「離婚望む妻」を絞殺した73歳夫の複雑な胸の内 老夫婦の「すれ違い」が招いた後味の悪い事件

「離婚望む妻」を絞殺した73歳夫の複雑な胸の内 老夫婦の「すれ違い」が招いた後味の悪い事件

すべての「家族」が仲良く手を取り合って暮らせるわけはない。なかには夫婦や親子同士で激しく憎しみ合い、争いの末に裁判や事件にまで発展してしまう家族もいる。

本連載では傍聴ライターとして長年活動し続ける高橋ユキ氏が、裁判の傍聴を通じて見えた「家族が抱える問題」について紹介していく。

ずんぐりむっくりした体型に白髪の坊主頭。黒いシャツとパンツで小ぎれいだ。

男は、松嵜(まつざき)文雄被告(73)。2017年5月、埼玉県川口市にある自宅マンションの一室で、同居する妻の松嵜すゑ子(すえこ)さん(68=当時)の首を絞めるなどして殺害。殺人罪で起訴された文雄被告の裁判員裁判は今年2月から3月にかけ、さいたま地裁で開かれた。

文雄被告は事件前に脳梗塞を発症し、その後遺症で失語症となっている。そのため、証言台の前にノートパソコンが広げられ、公判で会話が交わされるたびに、そのディスプレーに内容が表示されていた。法廷の端には、同時通訳のように会話をすぐさま入力している女性たちがいた。文雄被告の傍らには言語通訳が座り、ディスプレーに表示される文章を、細かく説明している。

事件を起こしてから脳梗塞で倒れたのではなく、事件を起こしたとき、すでに脳梗塞後で、失語症を発症している状態だった。逮捕から公判までに1年半をゆうに超えていたのは、文雄被告が否認して取り調べが長期化したというわけではなく、失語症のために取り調べに時間を要したためであろう。事件当時から、妻とのコミュニケーションは楽ではなかったはずだ。いったい何があって事件へと至ったのか。

「最初に離婚を望んだ」のは文雄被告だった

検察側冒頭陳述によれば、文雄被告とすゑ子さんは同棲を経て2002年に結婚。お互い再婚同士でそれぞれ成人した子どもがいた。2年後に本事件の現場となるマンションを購入し、同居を続けていたが、文雄被告が脳梗塞で倒れ、その後遺症で失語症に。主に発語が困難となった。言語聴覚士の元でリハビリを続けていたが、夫婦仲は徐々に悪くなっていったという。

2016年9月、離婚のために調停を申し立てたのは、文雄被告のほうだった。

事件までに5回の調停が開かれ、夫婦はともに離婚に合意していた。このまま離婚に至れば何も起こらなかったはずだ。だがすゑ子さんが提示した条件に、文雄被告が不満を抱く。それまで「夫が出ていけば、金銭を受け取れなくても離婚に合意する」と言っていたすゑ子さんが、5回目の離婚調停時に、こう主張したのだという。


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