新型コロナウイルスは、グローバリズムがもたらす「負の側面」を浮き彫りにし、「国家」の役割が再注目されるきっかけにもなっている。いわば「ポスト・グローバル化」へ向かうこのような時代の転換期にあって、国民国家、ナショナリズムを根源的に捉えなおす書、『ナショナリズムの美徳』がこのほど上梓された。

本書の著者でイスラエルの政治哲学者、ヨラム・ハゾニー氏は、自由と民主主義を守るのは国民国家であるとして、誤解されがちなナショナリズムの価値観を問い直している。その一方で、グローバリズムのパラダイムは、専制や帝国主義と同じだと警鐘を鳴らしている。

トランプ政権の外交基盤となり、アメリカ保守主義再編や欧州ポピュリズムにも大きな影響を与えたといわれるハゾニー氏の論考。われわれはどのように読み解けばいいのか。

『アメリカ保守主義の思想史』の著者でもある政治学者の井上弘貴氏が読み解く。

数多くの議論を巻き起こした書

イスラエルのシオニストにして政治理論家であるヨラム・ハゾニーの『ナショナリズムの美徳』が翻訳刊行された。

アメリカのハチェット・ブック・グループの傘下に現在はあるベーシック・ブックス社から2018年に刊行されて以降、この著作をめぐっては欧米で数多くの書評が書かれ、議論が巻き起こってきた。

2019年には、インターカレッジ・スタディーズ・インスティテュート(Intercollegiate Studies Institute)という保守主義の教育研究団体が、その年の最も注目に値する保守主義の著作を表彰する賞を『ナショナリズムの美徳』に与えている。

このISIは、戦後アメリカ保守を代表する知識人となったウィリアム・F・バックリー・ジュニアたちが1950年代に設立した歴史ある団体である。ハゾニーのこの著作が、アメリカの保守にとっていかに重要なものとして受けとめられたかを、この受賞は象徴している。

欧米のナショナリズムの思想的な動向を考えるうえで、今やハゾニーの発言や行動は注目の的である。

『ナショナリズムの美徳』を刊行した翌年から、ハゾニーはアメリカの仲間たちと「エドマンド・バーク財団」を設立し、この財団を母体として、欧米の多くの保守主義者たちと「ナショナル・コンサーヴァティズム(国民保守主義)」に関する国際的な会議を開催するなど、知識人として精力的な活動を展開してきている。

この会議にはこれまでに、ペイパルの創業者であるとともに熱烈なトランプ支持者でもあるピーター・ティールも参加している。日本でも『ヒルビリー・エレジー』の著者として知られる投資家のJ・D・ヴァンスも、この会議の過去の参加者のひとりである。