2021年にもっとも脚光を浴びた作詞家は、松本隆ということになるだろう。

メディア露出も活発で、また、山下賢二『喫茶店で松本隆さんから聞いたこと』(夏葉社)、藤田久美子『松本隆のことばの力』(インターナショナル新書)、田家秀樹『風街とデラシネ 作詞家・松本隆の50年』(KADOKAWA)、そして11月には延江浩『松本隆 言葉の教室』(マガジンハウス)と、関連本の出版ラッシュになっている。

また、来る11月の5日〜6日には、コンサート「松本 隆 作詞活動50周年記念オフィシャル・プロジェクト 風街オデッセイ2021」が日本武道館で開催。松本隆の歌詞を歌った有名音楽家が集結し、2日連続で行われる大イベントだ。

さらには、2015年に東京・東京国際フォーラムで開催された「風街レジェンド2015」のBlu-rayが12月22日にリリースされるという。

そんな、「2021年の松本隆」の賑やかしい活動の中で特筆すべきは、7月に発売されたトリビュートアルバム『風街に連れてって!』だろう。宮本浩次から川崎鷹也まで、幅広いシンガーが歌う松本隆作詞の名曲を集めた1枚。

亀田誠治の的確なプロデュースが「懐メロ」を現代的に昇華させていて、(個人的には凡作が多いと思う)「トリビュートもの」の中では出色の出来なのだが、この中で1曲選ぶとすれば、池田エライザによる『Woman "Wの悲劇"より』だ。

オリジナルは薬師丸ひろ子で1984年リリース。拙著『1984年の歌謡曲』(イースト新書)の中では、同年の最高傑作と断じたほどの出来なのだが、池田エライザ版は、薬師丸版とはまったく異なる宇宙を確立している。

サブスクリプションとワイヤレスイヤホンを通して聴く人を、コロナ禍の令和から別の宇宙にいざなう歌声とでも言おうか。

松本隆の歌詞の中にあるもの

今回は、松本隆の言葉が、この令和の世に求められる理由を考えてみたい。ヒット曲の多くは昭和に生み出されたものにもかかわらず、「昭和歌謡」が「令和歌謡」として、今いきいきと響き渡るのは、なぜなのか。

松本隆の歌詞には「作風」がある。阿久悠や秋元康よりも、その「作風」が各作品に影響している度合いは強い。

逆に、作曲家・筒美京平には「作風」が見出しにくい。ヒット曲を生み出すために、最新の洋楽をジャンル問わず幅広く吸収し、この国の風土に合うよう加工し続けた結果として。

太田裕美『木綿のハンカチーフ』(1975年)、近藤真彦『スニーカーぶる〜す』(1980年)、斉藤由貴『卒業』(1985年)――「作風」に関してタイプの違う組み合わせだったからこそ、松本隆と筒美京平は「ゴールデンコンビ」になりえたのかもしれない。