病気になる。しかも、それががんのような重い病気だったとしたら――。病気や治療に対する不安な気持ちや、うつうつとしたやりきれなさを抱える、そんながん患者に寄り添ってくれるのが、精神腫瘍医という存在です。

これまで4000人を超えるがん患者や家族と向き合ってきたがんと心の専門家が、“病気やがんと向き合う心の作り方”を教えます。今回のテーマは「家族の心理〜大切なひとが病気になったとき〜」です。

家族ががんにかかったときの家族の心理的苦痛は、患者さん本人と同じか、むしろ大きい傾向があることが、多くの科学的な研究で示されています。そのため、がん患者の家族は「第2の患者」ともいわれ、さまざまな立場の人たちから、「ケアを受けてください」という強いメッセージが出されています。

私が所属しているがん研有明病院の腫瘍精神科でも、ご家族もお気軽に受診くださいと呼びかけています。しかし、実際に受診される家族はごく一部です。

ケアが必要な人たちなのに、なかなかつながらないのはなぜか。それは、ご家族は精神的苦痛を抱えていても、それを心の奥底に押し込め、患者さんご本人のケアに専念しようと頑張る傾向があるからです。

患者のケアで精神的に疲弊することも

ただ、それはとても大変なことですし、悪い影響も出ることもあります。たとえば、ご自身が精神的に疲弊しすぎて患者さんのケアに支障が生じたり、周囲が心配してしまったり、などです。そこで、今回はがん患者のご家族の心理について、焦点をあててみることにします。

下田義男さん(56歳)と美穂さん(48歳。ともに仮名)は、とても仲のよいご夫婦。普段は美穂さんが物事を決めるのですが、いざというとき、美穂さんは義男さんを頼るというような間柄でした。

ある日のこと。義男さんは便に血のようなものが混ざっていることに気づきます。大腸内視鏡検査を受けた結果、大腸がんが見つかりました。肝臓への転移も複数あったことから、手術での根治は難しい状況でした。