病気になる。しかも、それががんのような重い病気だったとしたら――。病気や治療に対する不安な気持ちや、うつうつとしたやりきれなさを抱える、そんながん患者に寄り添ってくれるのが、精神腫瘍医という存在です。

これまで4000人を超えるがん患者や家族と向き合ってきたがんと心の専門家が、“病気やがんと向き合う心の作り方”を教えます。今回のテーマは「がんの終末期は苦しいのか」です。

私の外来(腫瘍精神科)に通っておられるAさん(54・男性)は、大腸がんの化学療法を定期的に受けています。

ある日の診察で、Aさんは穏やかな表情で、「今体調は安定して仕事や趣味の時間も持てていて、元気に過ごしています」と話されました。しかし、その後少し表情が曇り、「しかし、これからのことを考えるととても不安になります」とおっしゃるのです。

心配されているのはどういうことですか? と伺うと、「私にとって、死は怖くありません。そのときまで精一杯生きられれば、悔いはないと思っています。しかし、死に至るまでに痛みで苦しむのではないか? このことを考えると夜も眠れないぐらい不安になることがあります」と話されました。

死の直前は痛みで苦しむのか

がんによる療養生活というと、みなさんはどのようなものを想像するでしょうか? 今でも「壮絶な闘病生活」などと報道されることもあり、苦しみに満ちたイメージを持つ方も少なくはないでしょう。

しかし、私が実際の患者さんの診察現場で感じるものは、これとは異なります。

患者さんとご家族、友人、医療者との間には温かい人間的な交流があり、病室では笑顔が見られ、笑い声が聞こえることもあります。さまざまな苦悩はもちろんありますが、必ずしも陰湿なものばかりではないのです。